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<阿武隈川物語>(40)歌い継ぐ水害の記憶

川辺に歌声が響く「水のほほえみ」の舞台=2018年8月、福島県伊達市梁川町の広瀬川親水公園
広瀬川を彩る精霊流しの灯籠

 人の暮らしは長らく、川の恩恵にあずかるところが多大だった。現代では少し遠くなったようだが、川は人生の折節に、憩いと潤いをもたらしてくれる場でもある。水辺に親しんで生きる阿武隈川流域の人々の思いに触れた。(角田支局・会田正宣)

◎第8部 水辺で(3)親水公園

<響くオラトリオ>
 「水清き広瀬川よ 緑の野を横切り 桃や桜の香を運び 母なる阿武隈に注ぐ」
 福島県伊達市梁川町中心部を流れる阿武隈川支流の広瀬川親水公園。2018年8月12日、精霊流しの灯籠が彩る真夏の夜の水辺に歌が響き渡った。地元の合唱団や梁川交響吹奏楽団などの計約200人がハーモニーを奏でるオラトリオ「水のほほえみ」だ。
 梁川は1986年の8.5豪雨に見舞われ、災害復旧で95年に親水公園が整備された。水辺を舞台に、水害の記憶の伝承と自然との共生をテーマにしたオラトリオの上演が始まった。
 初演からバリトン独唱を務める元梁川中教諭の村上亮さん(62)は「災害を語り継ぐとともに、地域に誇りを感じられる文化活動になっている」と自負する。
 村上さんは8.5豪雨時、梁川中央交流館で吹奏楽部の練習中で楽器をステージに避難させた。祖父が豆腐製造を始めた実家は、広瀬川沿いだった。旧広瀬橋の上を水が流れるほどの豪雨で、家は無事だったが、隣にあった芝居小屋「旧広瀬座」は浸水した。
 それでも村上さんは「梁川は広瀬川と切り離せない。水に親しむまちの未来への思いが、オラトリオに込められている」と語る。

<親子3人で出演>
 梁川交響吹奏楽団副団長の佐藤敦子さん(46)は村上さんの吹奏楽部の教え子で、当時梁川中2年だった。消防団員の父が逃げ遅れたお年寄りを背負って救出したり、友人の家の1階が浸水してピアノの上に冷蔵庫が乗っていたりと、生々しく水害を記憶する。
 佐藤さんは高校2年の長女桃子さん(17)、中学3年の次女楓子さん(15)の親子3人でオラトリオに出演する。「作品を通し洪水が話題になる」と言う。
 河原は子どもの頃の遊び場で、小学生だった84年には絶滅した哺乳類「パレオパラドキシア」のほぼ全身の骨格の化石が出土し、話題になった。
 佐藤さんは「川を遠ざけるのでなく、身近にしてくれるオラトリオを受け継ぎたい」と誓う。
 市梁川総合支所長の桃井浩之さん(57)は当時、合併前の梁川町建設課職員だった。阿武隈川と広瀬川の合流地点に現場確認に行き、「茶色の海」に恐怖した。阿武隈川対岸から梁川を見た同僚は、梁川が水没したと思ったという。
 水害で甚大な被害を受けた梁川。だが、桃井さんの思いは変わらない。「広瀬川は梁川の安らぎであり憩いの場。川と生きるまちは変わらない」

[8.5豪雨]阿武隈川流域の戦後最大の洪水で、伊達市梁川町地区では広瀬川の堤防2カ所が決壊、床上浸水など479戸、避難者は1303人に上った。国の激甚災害対策特別緊急事業を受け、広瀬川の川幅を2倍に拡幅、広瀬橋など五つの橋を架け替えた。


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2019年03月29日金曜日


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