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<平成の東北・30年の軌跡>(5)文学/作家の「脱東京」強まる 直木・芥川賞受賞者身近に

直木賞受賞の知らせに、仲間と乾杯する熊谷さん=2004年7月15日、仙台市青葉区
芥川賞に選ばれ、記者会見する沼田さん=2017年7月19日、東京都

 仙台市青葉区国分町の飲食店で、作家熊谷達也さん(60)の携帯電話が鳴った。2004年7月15日夜。第131回直木賞決定を賞の主催者に告げられ、周囲の友人や編集者らから一斉に歓声が湧き起こった。
 マタギが主人公の「邂逅(かいこう)の森」は初ノミネート作で、山本周五郎賞との史上初のダブル受賞。店内での記者会見で、熊谷さんは「一番大事な根っこは東北にある。これからも東北で書き続けたい」と語った。

<「不毛の地」一変>
 宮城県出身者の直木賞は第8回の大池唯雄以来65年ぶりだった。会見の窓口を担った出版社「荒(あら)蝦夷(えみし)」の土方正志代表(56)は「長く『文学不毛の地』と言われた宮城で、街の空気を変える大きな転機になった」と振り返る。
 山形の藤沢周平に井上ひさし、岩手の石川啄木と宮沢賢治、青森の太宰治や寺山修司と、東北各県は時代の代表的な作家を輩出している。だが宮城を顧みると、杜の都に文学の香りは乏しかった。
 平成以後。熊谷さんと直木賞同時ノミネートだった仙台市在住の伊坂幸太郎さん(47)は、一貫して当地からヒット作を放つ。佐伯一麦(かずみ)さん(59)が帰郷し、伊集院静さん(69)も妻の古里に転入。今や仙台は著名な作家が数多く暮らす街、文学が生まれる街のイメージが定着してきた。
 土方さんは「作家が身近になり、小説を書く若い人が刺激を受ける。いい循環が生まれている」とみる。

<震災経験発信も>
 通信環境の発達で原稿をメールで送受信でき、出版社が集中する東京で暮らすメリットは薄れた。東京を離れ、地域に根差した作品を発表する作家が増えたのは全国的な傾向でもある。
 17〜18年にかけて盛岡市の沼田真佑さん(40)ら東北ゆかりの作家が3期連続で芥川賞に選ばれた。17年に仙台短編文学賞(実行委員会主催)が誕生。東北は東日本大震災の経験を踏まえた、新たな文学の発信地としても注目が集まる。
 かつて直木賞受賞の記者会見を東京以外で行うことは、ほぼ前例のない試みだった。熊谷さんは「東京の都合に合わせる必要はない。新時代は経済優先の揺り戻しで、文学が本来あるべき姿を取り戻していくのではないか」と展望する。


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2019年04月23日火曜日


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