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<裁判員裁判・東北の10年>第1部 経験の後で(2)踏襲/量刑の「相場」依然消えず

裁判官3人と裁判員6人が一列に並ぶ法壇。評議では裁判官との「序列」を感じる裁判員もいる=仙台地裁405号法廷

 「裁判員はそれぞれ考えが違うのに、裁判官は全員の意見を酌んでくれた」

<データ反映>
 山形地裁で昨年10月にあった強盗殺人未遂事件などの裁判員裁判。判決後の記者会見で裁判員の男性が評議をこう振り返ると、同席した裁判員らが一様にうなずいた。
 判決を決める評議では、6人の裁判員が3人の裁判官と事実認定や量刑を話し合う。裁判長は司会に徹して裁判員に意見を促し、推移を見ながら残る裁判官2人が考えを述べる。試行錯誤を経て、これが現在の評議の標準形となった。
 事実認定は検察側と弁護側の主張が食い違う部分を中心に検討し、議論の一致点を積み上げる。意見が割れたら、証人尋問や被告人質問のメモや録画を見直すなどして討議を重ねる。
 量刑判断は裁判所の「量刑検索システム」を使う。類似事件の量刑幅に行為態様などの犯情を照らし合わせて重めか軽めかの方向性を決め、そこに示談の有無など情状を加味して結論を出す。システムには現在、全国約1万1800件の裁判員裁判判決が反映されている。
 「(システムに基づく)量刑の分布グラフを参考にして初めて、刑期が決まる理屈が分かった」。宮城県内の性犯罪事件で裁判員を務めた20代男性が言う。
 公判前、「性犯罪の量刑はもっと重くていい」と考えていた男性は「軽すぎると思っていた性犯罪の量刑に納得感を持てた点で、裁判員の経験に意義を感じた」と説明する。
 裁判官は発言しやすい雰囲気づくりにも腐心する。裁判員の呼び方は当初「○番さん」と番号だった。「番号では互いに距離を感じやすい」(関東の裁判官)として、名字で呼び合うようになった。

<過程が重要>
 ただ、肯定的な捉え方ばかりではない。
 「最初から法律や前例でこうだと言われると、裁判員が判断できる幅はほとんどない」。2016年に仙台地裁の無理心中未遂事件の公判で裁判員を務めた60代男性は、評議をこう顧みた上で「道筋ができていて、既に落ち着きどころがあるように思えた」と続けた。
 評議は密室でなされ、裁判員には守秘義務が課される。内容がつまびらかにされないため「裁判員は裁判官の意見に引っ張られている」と疑う弁護士や検察関係者は多い。
 特に量刑判断は、過去の実績と裁判官の経験に基づく「相場」を踏まえた職人技とされる。「良くも悪くも均一、均質な裁判」(東北の裁判官)からの打開策として裁判員制度は期待されたが、従来相場とされた「求刑の8掛け」程度の量刑は依然多い。
 無理心中事件を担当した男性は自分の考えと量刑傾向に違いはなかったが、評議の雰囲気を「あえて素人の意見を言っても、プロに一笑されて終わりだと感じた」と明かす。
 旧来の裁判を踏襲したような判決でも、問われるのは結論に至る過程だ。男性は「量刑への市民感覚の反映こそが制度の根幹。前例にこだわらない意見を言わせる工夫を裁判官にはしてほしかった」と語った。


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2019年04月24日水曜日


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