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<裁判員裁判・東北の10年>第1部 経験の後で(4完)孤独/守秘義務の下 語れぬ思い

専修大での裁判員ラウンジ。守秘義務が招く孤立感を多くの元裁判員が抱える=2018年12月

 一般市民が刑事裁判に参加する裁判員制度は5月21日に施行10年を迎える。東北では3月末までに591の事件が審理され、約4400人が裁判員や補充裁判員に選ばれた。刑事裁判は「市民感覚」の導入で激変し、今も変革途上にある。制度は10年間に何をもたらしたのか。第1部は東北の元裁判員の声から制度の課題を探る。(裁判員裁判取材班)

 「体重が減るほど大変だったが、参加してよかった」

<散り散りに>
 仙台地裁で3月にあった強盗強制性交事件の公判で裁判員を務めた堀本和年さん(74)=仙台市若林区=は充実感をかみしめる。規定で70歳以上は無条件で辞退できるが「興味があったし、高齢者でもできるのか挑戦してみたかった」という。
 審理は検察側と弁護側の主張が真っ向から対立し、有罪か無罪かが争われた。判決は求刑通り懲役15年。「記憶力の衰えなのか、評議では細かな証拠内容を思い出せず意見に困ったが、年の功で大局的な視点を示せた」と自己評価した。
 一つだけ心残りがある。判決後の裁判員記者会見が終わると、全員が散り散りに帰路に就いた。連絡先を交換したかったが、遠慮して言い出せなかった。
 守秘義務を気にせずに裁判を振り返ることができるのは、共に事件を審理した裁判員同士だけだ。「出した結論に後悔はないが、被告が無罪主張だっただけに思うところはある。誰かに打ち明けたくてもできないのがもどかしい」とため息をついた。
 死刑など重い刑が想定される事件では、裁判員の心理負担に配慮して「元裁判員同士の交流の事例を紹介し、暗に連絡先の交換を促す場合もある」(東北の地裁)が、あくまで例外的な対応だ。
 裁判員名簿は判決後、程なく廃棄される。後に他の裁判員の連絡先を裁判所に問い合わせても、そもそも応えるすべがない。

<使命は続く>
 5年前、青森地裁で強盗致傷事件の裁判員を務めた黒石市職員太田淳也さん(51)も孤独感を覚えた。「最後まで『○番さん』と番号で呼び合っていたし、何が守秘義務かも分からなかった。名前も職業も言えない雰囲気で終わってしまった」
 太田さんは昨年12月、東京・神田の専修大で開かれた「裁判員ラウンジ」に参加した。ラウンジには定期的に全国各地の元裁判員らが集まり、経験や制度課題について意見を交わす。
 「証拠が少なく事実認定に自信がなかった」「判決後に別の裁判員に本音の心証を打ち明けて気が晴れた」。参加した約30人は守秘義務に配慮しつつ、ため込んだ胸の内を明かした。太田さんも「仲間」との率直な語らいで気楽になれた。
 ラウンジでは、仕事の都合などで裁判員を辞退する人の割合が上昇していることも話題になった。2018年の辞退率は制度施行初年の09年を約14ポイント上回る67.0%に達した。
 09年に平均3.7日だった審理期間が18年は10.8日と長期化が著しく、職場など周囲の理解が得づらくなっていることも辞退者増の要因とされる。太田さんも「公務員の職場でさえ、快く送り出してはくれなかった」と明かす。
 多くの人に裁判員を経験してほしいと思う分、制度運用の不備や社会の理解が広がらないことが歯がゆい。
 「伝わり切れていない制度の課題と良さの両方を、元裁判員は広める責任がある」。裁判が終わっても裁判員の使命は続く、と太田さんは考えている。


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2019年04月26日金曜日


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