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<裁判員裁判・東北の10年>第2部「理想の実相」(1)回帰/調書中心審理 脱却を模索

「対質」で証人らは法廷中央(灰色の椅子)に横一列で座った。審理の模索は続いている=2月15日、仙台地裁102号法廷

 2月中旬、仙台地裁の100席近い大法廷の傍聴席は弁護士や検事、判事らの姿であふれた。

<異例の対質>
 車で知人女性をひき殺したとして殺人罪に問われた被告の裁判員裁判。法曹関係者の目当ては、複数の証人が同時に意見を述べ合う「対質(たいしつ)」での尋問だった。
 証人は個別に尋問するのが原則で、裁判員裁判での対質は全国でも珍しい。裁判長の江口和伸判事(47)が初公判前に検察、弁護側に提案した。
 被告は捜査段階から犯行を否認し、犯人性を巡る検察、弁護側の主張が鋭く対立。対質は17人に上る証人を効率的に尋問し、意見の相違点を分かりやすく浮かび上がらせる狙いだった。
 「弁護側は対質での質問の運び方に苦労していた。裁判員裁判用に覚えることが、また増えた」。傍聴した中堅の男性弁護士は苦笑いで法廷を後にした。
 裁判員裁判は法廷で直接語られた内容から判断する公判中心主義の徹底を掲げる。原点とも言える「見て聞いて分かる裁判」を目指し、従来の複雑で難解な書面審理中心の「調書裁判」からの脱却が期待された。
 江口判事は21年前の任官当時の様子を「調書裁判の末期状態」と表現する。初任地の東京地裁でオウム真理教事件や大型経済事件の担当となり着任早々、400冊以上の裁判記録ファイルに目を通した。
 裁判官室で膨大な記録を読み込み、検察、弁護側の詳細な立証に応える子細で長大な判決を書き上げるのが当然だった時代。裁判官が熟読する調書をつくる手続き、というのが公判の実態だった。
 法曹しか分からない専門用語や法理論の応酬は法廷をギルド(同業組合)的な雰囲気で包み、時にはなれ合いに似た関係となる。江口判事は「裁判員との審理で緊張感が生まれる。本来あるべき適正な手続きになる」と言い切る。
 山形地裁で裁判長を務める児島光夫判事(45)の思いも同じだ。「当初は『裁判官が裁判員を導く』という意識があった。今思えば非常におこがましい考えだった」と語る。

<常識は「垢」>
 一例に「被告の反省」を挙げる。裁判官は示談や被害弁償の有無など外形的な事実で判断するが、裁判員は被告の表情や態度の信ぴょう性を重視する。「裁判官の常識は長年の『垢(あか)』のようなものだ。本当に正しいのか、裁判員との評議の度に考えさせられる」と明かす。
 裁判の原点回帰を目指す取り組みは、成果と裏腹の課題も抱える。
 裁判官と検察官、弁護人が事前に争点や証拠を絞り込む「公判前整理手続き」は円滑審理の生命線だが、2018年の平均期間は8.2カ月。制度施行初年(09年)の約3倍まで延びた結果、被告の身柄拘束の長期化や記憶の薄れを招いている。
 江口判事は仙台地裁に着任した昨春から同手続きで検察、弁護側の主張を極力口頭でさせ、迅速化を図っている。「制度は改善の余地がまだ大きい。得た成果を裁判官のみの裁判にも反映させたい」と話す。

 裁判員裁判の審理は10年の試行錯誤を経た今も理想と現実がせめぎ合う。第2部は法廷に臨む法曹三者の実情に迫る。(裁判員裁判取材班)=第2部は6回続き


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2019年05月08日水曜日


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