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<裁判員裁判・東北の10年>第2部「理想の実相」(2)源流/本質を追求 争点絞り判断

裁判員制度導入時に設置されたPR看板。国民に信頼される刑事司法への道は途上だ=仙台地・高裁

 仙台地裁で裁判員裁判を実施する二つの刑事部のうち、第1刑事部は法廷で裁判官3人と裁判員6人が交互に座る。評議室でも同じ席順でテーブルを囲む。全国でも珍しい配置だ。

<「仙台方式」>
 裁判員制度の施行(2009年)を挟み同部の裁判長を務めた卯木誠・元判事(68)が導入した。裁判員と裁判官が意思疎通しやすいとして、現在も受け継がれている。
 検察側が証拠請求した被告の供述調書の採否を後回しにし、被告人質問を先行させる訴訟指揮も今は各地で定着したが、卯木裁判長時代の仙台地裁が先駆けた。「新制度で前例はない。良いと思ったことは何でも試した」(卯木元判事)という一連の取り組みは、法曹界で「仙台方式」とも呼ばれた。
 かつての刑事裁判は裁判官が膨大な記録を精読し、緻密な事実認定で判決する「精密司法」が使命とされた。一般市民には困難なため、裁判員制度は公判前整理手続きで絞り込まれた争点への判断を示す「核心司法」が理念だ。
 「それが本来の姿のはずだ。裁判官は凝り固まった前例や慣行に縛られすぎていた」。卯木元判事はこう指摘し「裁判員制度は刑事裁判が本質に立ち返る好機だった」と続けた。
 制度導入を機に、裁判官が足元を見つめ直す動きは広がった。「自分が十分理解しないと(裁判員の)誰もが分かるようには説明できない。裁判官自身が裁判手続きを勉強し直した」。2月まで仙台地裁所長を務めた大善文男さいたま地裁所長(59)が説明する。
 殺意や責任能力など難解な法的概念の解釈や、理論化されていなかった量刑判断の在り方について、最高裁司法研修所が研究報告書を作成。多くの裁判官が実際の裁判に生かしている。

<迅速化図る>
 東北の裁判官らは5年前から、北東北と南東北の3県ずつに分かれて自主的な勉強会を定期的に開催。担当した裁判員裁判の記録を持ち寄り、改善策を話し合う。精密司法の時代には考えられなかった姿だ。
 裁判員裁判の実施数は刑事裁判全体の約2%。多くの裁判官は希少な裁判員裁判で理想を追求する一方、裁判官のみの裁判で旧来型の長期審理を続けがちだったが、制度の定着とともに「ダブルスタンダード」は解消に向かっている。
 審理が長期化しがちな否認事件では公判前や初公判後に検察、弁護側と審理計画を立て、裁判員裁判のように争点を絞る訴訟指揮が増えた。自白事件でも初公判前に要点を詰め「審理中に心証をメモして判決の大枠を固め、結審時は判決を清書するだけの状態」(東北の裁判官)にして迅速化を図るケースもある。
 法廷供述を重視し、捜査段階の供述調書を証拠採用しない取り扱いは現在、裁判官のみの裁判でも実践される。源流を見失いかけていた刑事裁判も、10年を経て、再び本来の流れを取り戻しつつある。
 大善所長は「争点を中心に真相を究明し核心を突くのが肝なのは、どの裁判も同じだ。国民と懸け離れた審理をしていては、司法は信頼を勝ち得ない」と言い切る。


関連ページ: 宮城 社会 裁判員裁判

2019年05月09日木曜日


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