広域のニュース

<裁判員裁判・東北の10年>第2部「理想の実相」(4)腐心/関心得る工夫 立証のため

法廷の検察官席。裁判員最優先の裁判には検察内部に不満もある=仙台地裁

 「検察官が証明しようとする事実です」
 法廷中央の証言台に立った女性検事は、手元の証拠一覧表に目を落とした裁判員らの様子を見て一呼吸置き、リモコン操作のスライドを使って証拠の「プレゼンテーション」を始めた。

<「劇」で説明>
 昨年11〜12月に福島地裁であった殺人・傷害致死などの事件の裁判員裁判。被告は殺意を否定し、傷害致死については「弟がやった」と無罪を主張した。
 初公判でのプレゼンは主に、複数の書証を簡略化して集約した「統合捜査報告書」の朗読が占めた。被害者と関係者の電話内容は、検察官2人が掛け合いの「会話劇」で説明した。
 その後の公判で、検察側が最重要証拠とした被告の取り調べの映像を上映した。収録されていたのは被告が1度だけ警察官に自白した場面。地裁は殺人、傷害致死の両罪とも成立を認め、無期懲役の求刑に対し懲役30年の判決を言い渡した。
 判決を決める評議で、6人の裁判員は3人の裁判官と同様に1人1票の評決権を持つ。数では多い裁判員の理解を得るための公判活動に、検察組織は腐心してきた。
 「事件の真相を解明し、適切な判決を求めるのが仕事。最終的に裁判員が検察の求刑を納得できるかどうかだ」。4月まで仙台地検次席検事だった山崎耕史法務総合研究所総務企画部長が強調する。
 公判で検察官は丁寧な口調を意識し、裁判員と頻繁にアイコンタクトを取る。裁判員に配る冒頭陳述(冒陳)や論告のメモには時系列表や図解を付けるなど工夫を凝らす。特に冒陳は裁判所から「詳細過ぎると裁判員が証拠調べへの興味を失う」と、くぎを刺されるほどだ。

<強い違和感>
 過剰な丁寧さに代わり、近年は「思わせぶり冒陳」と呼ばれる手法が目立つ。「被告の動機は今後の証人尋問で明らかにします」といった程度に冒陳をとどめる。同地検の石川さおり公判部長は「後で明らかになる証拠の中身に関心を持たせる手法だ」と説明する。
 分かりやすい審理の実現には立証責任を負う検察の協力が不可欠だが、制度の運用を巡り、裁判所との間にすきま風も吹く。
 昨年9月に仙台地裁であった自宅放火事件の裁判員裁判は、高齢の被告が持病の神経疾患で思うように話せず、被告人質問が難航した。犯行態様は自白調書に詳述されていたが、生の声を重視する裁判員裁判では基本的に証拠採用されない。
 裁判長が「検察側の質問の意図が被告に伝わっていない。被告の法廷供述は裁判員が理解できない」と苦言を呈すると、検察側は「質問は明瞭だ」と強い口調で言い返した。「それなら調書を採用してほしい」との不満がにじんでいた。
 遺体写真をはじめ、刺激が強い証拠をイラストなどに加工して裁判員に示させる裁判所の方針にも「写真が物語る真実を直視しないやり方で本当にいいのか」との声が検察に渦巻く。
 「被告のためでも被害者のためでもない、裁判員のための裁判だ」。東北のある検察幹部は「裁判員ファースト」の訴訟指揮への違和感を隠さなかった。


関連ページ: 広域 社会 裁判員裁判

2019年05月11日土曜日


先頭に戻る