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<裁判員裁判・東北の10年>第2部「理想の実相」(5)違和/法律概念難解 説明に苦悩

司法研修所の報告書。難解な解釈の単純化には疑問の声もある

 「『挫創』という医学用語は、少し説明を足した方がいいですか」

<証人が配慮>
 昨年10月、仙台地裁での殺人事件の裁判員裁判。被害者の遺体を司法解剖した法医学者の舟山真人東北大大学院教授(61)は証人尋問で、裁判長にこう問いかけた。
 挫創は打撃による傷口のある負傷で、傷口がない場合は「挫傷」となる。響きも印象も似た二つの医学用語の違いを、裁判員にきちんと理解してもらうための配慮だった。
 被告は妻を鈍器で殴り殺したとして殺人罪に問われた。公判冒頭の罪状認否で「殺すつもりはなかった」と殺意を否認した。
 言葉としてはなじみ深い「殺意」だが、実は難しい法律概念だ。
 保険金殺人のような積極的な殺意だけでなく「死んでも構わない」という心理や「人が死ぬ危険」の認識も殺意と解釈される。殺意があったかどうかの被告の「内心」は、傷口などの医学的所見や客観的な行為態様などから検討される。
 「短い尋問で裁判員に全てを理解してもらうには限界がある。自分の証言に細かい疑問点が残っても、裁判官から説明を受けて解決できるだろうと考えていた」と舟山医師は振り返る。
 刑事裁判に初めて参加する裁判員にとって裁判官、とりわけ裁判長の存在は大きい。専門用語や法律概念の解釈も、裁判長が示す判断が決定的な意味を持つ。検察、弁護側には「結局は裁判長の説明次第で裁判員の心証は左右される」(仙台市のベテラン弁護士)との思いがある。

<報告書多用>
 裁判官らが判断のよすがとするのは、最高裁司法研修所が殺意や責任能力といった難解な法律概念の裁判員への説明方法を例示した報告書だ。実際の裁判で多用されているが、違和感を抱く専門家もいる。
 精神鑑定医として多くの裁判員裁判で証言してきた沼倉堅一医師(57)=名取市=は「鑑定意見は被告の行為にどう影響を及ぼしたかの観点から精神障害の診断内容の説明に重点を置けば足りる」とする報告書について「精神疾患の診断を前提に行為への影響を考えるのは、精神科医として納得できない」と指摘する。
 犯行時の精神状態が問われる刑事責任能力の法的判断は臨床診断と異なる。沼倉医師は「裁判員裁判では犯行時の精神状態と関連性が薄くても診断病名の詳しい説明を求められがちだ。(病名に関する)自分の証言がミスリードにならないか心配になる」と明かす。
 判断の難しい事件で裁判員の心証をどう得るか。組織的に経験とスキルを蓄積する検察側に比べ、孤軍奮闘を強いられる弁護士は苦悩する。
 秋田地裁で昨年12月にあった放火事件の裁判員裁判は、統合失調症の被告の責任能力が争点となった。弁護人の田中伸顕弁護士(31)=秋田弁護士会=は心神耗弱を主張。検察側は犯行時の被告は薬で症状が抑えられていたとの証言を鑑定医から引き出し、判決は完全責任能力を認めた。
 田中弁護士が裁判員裁判で弁護人を務めるのは初めてだった。「検察側とレベルの差を感じた。どうすれば良かったのかも分からない」と率直に振り返った。


関連ページ: 宮城 社会 裁判員裁判

2019年05月12日日曜日


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