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<裁判員裁判・東北の10年>第2部「理想の実相」(6完)憂鬱/厳密さ薄れ 感情移入重視

仙台弁護士会の研修会。裁判員向けの過剰な「お膳立て」には懐疑的な声もある=4月9日、仙台市青葉区の仙台弁護士会館

 盛岡地裁で昨年12月に審理された保護責任者遺棄致死事件の裁判員裁判で、弁護側が冒頭陳述した。

<開く経験差>
 「被告は子育てに疲れて知人と遊び歩き、その間に長男を死なせてしまった」
 父親の被告に不利な事情にも言及した上で、「妻の浮気が原因の別居が事件の背景にある」と情状酌量を訴えた。
 懲役6年の求刑に対し判決は懲役5年。量刑理由で育児放棄の態様の悪さを強調しつつ「被告の苦労に同情の余地はある」とした。
 裁判員の量刑判断は「自分と被告の立場を置き換えやすい事件ほど、情状面で被告に有利」(東北のベテラン弁護士)とされる。主任弁護人を務めた中堅の男性弁護士は「弁護側が提示したストーリーを酌んでもらえた」と評価した。
 裁判員裁判の弁護活動は、自白事件を中心に被告の言い分や開示証拠から組み立てた事件のストーリーを裁判員に聞かせる「ケースセオリー」と呼ばれる手法が10年間で発展した。
 冒頭陳述で被告に不利な事情もあえて説明し、後の証人尋問や被告人質問で有利な事情を印象づける。事件を総括した意見を述べる最終弁論は、初公判前に草稿を仕上げるのが基本だ。
 こうした手法は日弁連主導で確立され、研修を受けた弁護士らが各地の弁護士会で周知を図っている。裁判員裁判が日常業務の裁判官や検察官と、その他の業務で多忙な弁護士とでは圧倒的な経験差が生じる。特に地方では顕著だ。
 東北で最も裁判員裁判の件数が多い仙台地裁でも、年間十数件にとどまる。約460人いる仙台弁護士会の所属弁護士が裁判員裁判を担当する機会は、数年に1回あるかないか。ノウハウの共有は裁判員裁判開始以来の課題になっている。

<ずれる解釈>
 仙台弁護士会は4月、会員弁護士向けの法廷技術研修会を開いた。昨年10月に仙台地裁であった実際の裁判官と検察官、弁護士による模擬裁判員裁判で弁護人役を務めた会員3人が体験報告した。
 研修会の題材は、取り押さえられた被告のナイフの峰が警察官の首元に当たったという殺人未遂事件で、殺意の有無が争点だった。
 昨年1月に日弁連の研修を受けた大林弘典弁護士(40)は「警察官の携帯電話の持ち手を狙ってナイフを振り回しただけ」との主張のケースセオリーを紹介し「裁判員が抱くであろう疑問は全て想定しておくことが必要だ」と強調した。
 実践的な技術論を熱心にメモする姿も見られたが、模擬評議の様子を収めた録画が再生されると会場の空気が一変した。
 評議で裁判長役は「被告に人が死ぬ危険の認識があったか」という未必の殺意の議論を促した。だが、裁判員役を務めた市民の発言はおおよそ、「殺してやる」との積極的な殺意があったかどうかに終始した。
 「裁判員役は殺意の概念を最後まで理解できていないし、裁判長の説明は少しでも人の死ぬ危険があれば殺意を認めるような言い回しだった。公判の事前準備以前の問題だ」
 録画を見たベテラン弁護士は、かつての刑事裁判では当然だった厳密な法解釈からはほど遠い評議の実態に表情を曇らせた。=第3部は16日から掲載予定


関連ページ: 宮城 社会 裁判員裁判

2019年05月13日月曜日


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