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<裁判員裁判・東北の10年>第3部 模索の果て(上)誤算/被害感情共有 評価と懸念

裁判員裁判が開かれる法廷の証言台。被告や証人の言葉を裁判員はさまざまな思いで受け止める=仙台地裁

 2017年に仙台地裁法廷で起きた刃物切り付け事件の裁判員裁判。同地裁で昨年8月にあった被告人質問で、殺人未遂罪などに問われた被告の男(32)は「この国の司法を信用できない」と述べ、検察官と裁判官の質問を全て無視した。
 裁判員の質問順が来た。「謝罪の気持ちがあれば聞かせて」。女性裁判員が困惑気味に尋ねると、男は「本当に人を傷つけるつもりはなかった。被害者には申し訳ない思いで、心苦しい」と口を開いた。
 懲役16年の求刑に対し、判決は懲役12年。殺意を否定した主張を一蹴された男は仙台高裁に控訴した。
 控訴審判決を控えた今年2月中旬、仙台拘置支所(仙台市若林区)で河北新報社の取材に応じた男は「裁判員なら少しは自分の気持ちを分かってくれるんじゃないかと期待したが、結局は裁判官の言いなりなんですか」と落胆した様子を見せた。男はその後、控訴を棄却した高裁判決を不服として上告した。

<「むかつく」>
 刑事裁判は犯罪事実の有無と刑罰を決める手続きだが、被告に罪を自覚させ、反省や更生につなげる場でもある。多くの被告と立場が近い一般市民の裁判員にはそうした役割も期待されているが、課題は残る。
 「むかつくんですよ、あなたの話を聞いていて」。仙台地裁で09年にあった強姦(ごうかん)致傷事件の裁判員裁判。被告にこう発言した裁判員の男性を裁判長が制止した。
 犯罪加害者や家族を支援するNPO法人ワールドオープンハート(仙台市)の阿部恭子代表(41)によると、その後の同地裁の裁判員裁判では休憩中に裁判官が裁判員の疑問点を聞き取り、代わりに質問するケースが増えたという。
 男性は判決後の記者会見で「法廷に感情を持ち込むのは良くない」と反省の言葉を口にしたが、阿部代表は「裁判員裁判を開く意味があると思った」と発言を評価する。「被告の深層心理に迫る質問、裁判官にはできない質問をしてほしい。そんなやりとりの先に被告の更生や社会復帰の道がある」と強調する。

<弁護側反発>
 犯罪被害者にとっても裁判員は無関係ではない。裁判員制度施行直前の08年、被害者や遺族が公判で証人尋問や被告人質問をしたり、量刑意見を述べたりすることができる被害者参加制度が導入された。「裁判員には怒りや悲しみを共有してもらいやすい」と感じる被害者は少なくない。
 20件以上の裁判員裁判に被害者参加弁護士として関与した大張慎悟弁護士(41)=仙台弁護士会=は「判決に対する被害者らの納得感は通常の裁判以上」と話すが、苦い経験もある。
 事件当時少年だった被告に初の死刑判決を言い渡した石巻市の3人殺傷事件の裁判員裁判(10年)に関わった際のことだ。
 被告の母親の証人尋問で死刑求刑を念頭に「あなたの元に被告が帰ってくるとでも思っているんですか」などとただした。被害者の悲しみを思うあまりの発言は、弁護側の激しい反発を招く結果となった。
 市民として裁判員が被害側に同情するのは当然だが、事実認定や量刑判断に影響がないとは言い切れない。「被害感情が裁判員に過大評価される」。刑事弁護に当たる弁護士の懸念は今も解消されていない。

 裁判員制度は評価が入り交じり、理想型の模索が続く。歩みを進めるには何が必要なのか。第3部は制度の在り方を考える。


関連ページ: 宮城 社会 裁判員裁判

2019年05月17日金曜日


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