広域のニュース

<裁判員裁判・東北の10年>第3部 模索の果て(中)翻弄/「市民感覚」 上級審で否定

控訴審の在り方は裁判員制度の存在意義を左右する=盛岡地裁

 「量刑理由が犯罪事実と整合していない」
 2017年に奥州市で起きた殺人未遂事件。被告の男に対し、昨年5月の仙台高裁判決は懲役10年(求刑懲役12年)とした盛岡地裁の裁判員裁判判決を破棄し、懲役6年に減刑した。
 男は離婚を巡り口論になった妻を果物ナイフで刺したとして起訴されたが、「もみ合いの最中に倒れ込んで刺さった」と殺意を一貫して否認していた。

<感情が先行>
 「裁判員裁判では『被害者がかわいそう』という感情的な議論が先行した。行為態様に関する被告・弁護側の主張は無かったことにされた」。一、二審を通じて弁護人を務めた望月敦充弁護士(40)=岩手弁護士会=が振り返る。
 地裁判決は14カ所の刺し傷のうち、傷の深い首と胸の計3カ所以外は「被害者が抵抗した際に生じた疑いが残る」と認定しつつ、量刑理由で「十数カ所に傷を負わせた危険な犯行」と行為の悪質さを強調した。
 一方、高裁判決は傷の深い3カ所のみを「殺意あり」とし、他の傷は不問にした。「具体的な行為態様を争点とすべきだったのに、公判前整理手続きで『殺意があったか否か』と争点を抽象的に整理した」と一審の不備も指摘した。
 「懲役6年」は弁護側が主張していた傷害罪を適用した場合と同程度で「勝ち」に等しい。それでも望月弁護士は「公判前整理手続きで何度も行為態様を争点にするよう求めたが、対応してもらえなかった。審理の分かりやすさを考えて引き下がったのが反省点だ」と自戒する。
 一審が裁判員裁判でも、高裁での控訴審や最高裁での上告審は裁判官のみで審理する。「プロの判断」は時に、一般市民の感覚が反映された結論を翻弄(ほんろう)する。
 秋田市で10年に起きた弁護士刺殺事件が典型例だ。仙台高裁秋田支部は12年9月、懲役30年(求刑無期懲役)の秋田地裁の裁判員裁判判決を「起訴内容にない犯罪事実を認定した量刑判断で違法」と破棄、審理を地裁に差し戻した。
 問題となったのは、被告が被害者に拳銃の引き金を2回引いたとする事実。起訴内容になく争点でもなかったのに事実認定し、量刑に反映させた一審判決を「訴訟手続きの法令違反がある」と断じた。
 だが、14年4月の最高裁判決は未発射の事実を「殺害行為の過程としての認定」と指摘し、高裁判決を破棄。高裁は同9月の差し戻し控訴審判決で「犯行の悪質性や計画性を過小評価した」と、裁判員裁判判決を再び破棄して無期懲役を言い渡し、後に最高裁で確定した。

<理念どこへ>
 差し戻し控訴審判決は、遺族が強く考慮を求めていた「被害感情」や「被告の放言」を量刑事情に加えた。いずれも原審となる裁判員裁判には盛り込まれていない要素だった。
 「裁判員裁判の判断をできる限り尊重すべきだ」。控訴審の在り方も論点となった別の事件で、最高裁判決(12年2月)に付された補足意見の理念は、そこにはうかがえなかった。


関連ページ: 広域 社会 裁判員裁判

2019年05月18日土曜日


先頭に戻る