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<東日本大震災 復興人>「みちのく潮風トレイル」ルート選定 沿岸の明日、歩き開く

ロングトレイルに適したルートを探し歩いた桜庭さん=岩手県岩泉町の三陸復興国立公園

◎仙台市青葉区・東北地方環境事務所職員 桜庭佑輔さん(41)

 草木が生い茂る山林に一本道が確認できた。
 「以前は何となく踏み跡がある程度だった。だいぶ歩きやすくなった」
 5月下旬、岩手県岩泉町の三陸復興国立公園。「みちのく潮風トレイル」と呼ばれ、決まったルートを歩くロングトレイルの一部だ。ルート選定に当たった仙台市青葉区の桜庭佑輔さん(41)が喜びをかみしめた。
 環境省東北地方環境事務所の職員。国立公園課で課長補佐を務めている。八戸市−相馬市間の林道や遊歩道を結ぶプロジェクトは9日に最後の4区間を発表し、約1000キロの全線開通を宣言する運びとなった。
 事業の検討が始まったのは東日本大震災から間もない2011年6月。欧米発祥のロングトレイルの普及に取り組んでいた作家の加藤則芳さんが、環境省に「海外から旅行者が訪れ、被災地を広く知ってもらえる」と持ち掛けたのがきっかけだった。

 環境省がルート開拓を主導した例はなく、声が掛かったのが桜庭さんだった。北海道函館市の出身。高校と大学で山岳部に所属し、北アルプスの山々を踏破するなど豊富な山の知識と健脚を兼ね備えていた点が評価された。
 11年11月に八戸市の蕪島から南下を始めた。東京の本省で国立公園課の通常業務をこなしつつ、13年3月まで断続的に計10回、47日かけて相馬市の松川浦まで歩いた。
 長い時は約2週間のテント生活を送った。職場では冗談交じりに「トレイル専門官」と呼ばれた。リュックサックに無精ひげ、Tシャツ、ハーフパンツという格好で歩き、「2回も職務質問された」と笑う。
 ロングトレイルの第一人者としても知られる加藤さんが指南役だったが、筋萎縮性側索硬化症(ALS)のため現地には赴けない。桜庭さんが横浜市の加藤さん宅に通い助言を求めた。
 「もっと海岸線を」「山があるのに国道を歩くのか」。加藤さんが写真や地図を広げて熱っぽく語る。桜庭さんが「地形が厳しい」とこぼすと「そこがいい」と激励された。

 加藤さんのアドバイスで特に心掛けたのは「アドベンチャーコースを作る」。欧米では3000キロを超す例があり、崖をはしごで上ったり、巨木の上を歩いたりする難所も設定されている。桜庭さんは地図を手にあえて道を外れ、冒険心を満たすルートを探った。
 調査で標高約150メートルの山を1日に七つも八つも越えた。真っ暗な手掘りのトンネルはライトをつけて歩いた。海岸線に近づけるため、満潮や高潮の時には通れない道も盛り込んだ。
 検討開始から約8年。桜庭さんが歩いた道に地域住民の意見も反映し、ようやく全線がつながる。テントに寝泊まりして一気に歩き通すことも、区間を分けて挑戦することも可能だ。
 開通を最も強く待ち望んだはずの加藤さんは、13年に63歳で亡くなった。「もし生きていたら『もっと良いルートにしろ』と言われそう」と桜庭さん。「まだまだ未成熟のトレイル。これからが本番」と気を引き締めた。(報道部・鈴木拓也)

<描く未来図>多くの来訪に期待

 環境省が中心となって整備した日本初のナショナルトレイルで、海外のハイカーやメディアからも問い合わせがある。世界的にも海岸沿いのコースは少なく、三陸の地形や豊かな自然を感じられるルートに仕上がった。難所もあるが、それも楽しみながら多くの人に歩いてもらいたい。


2019年06月06日木曜日


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