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<国際麻薬乱用撲滅デー>覚醒剤「体も人生も壊す」元密売人の男性が実態語る

「一緒にいてくれるのは猫だけ。全てを失った今の自分を見てほしい」。自宅で元売人の男性がつぶやいた=宮城県内

 26日は国際麻薬乱用撲滅デー。覚醒剤や大麻といった違法薬物に手を染め、依存症に陥る人は後を絶たない。昨年1年間で東北で約420人、全国では約1万3900人が薬物犯罪で摘発された。「体も人生も壊れた」。かつて覚醒剤を常用し、密売にも携わった宮城県内の70代男性が河北新報社の取材に応じ、依存の実態を語った。

 男性は1980年代後半から約20年間、覚醒剤の売人として宮城県内で暗躍した。覚せい剤取締法違反(使用)の罪で服役、昨年3月に北東北の刑務所を出所した。長期間の薬物使用で肝硬変を患い、現在は訪問介護を受け生活する。
 「世間からひっそり隠れて死ぬのを待つだけ。シャブ(覚醒剤)なんかに関わらなきゃよかったと、死んでも死にきれない後悔がある。体も人生も壊れてしまった」
 初めて覚醒剤を使ったのは17歳。旧知の先輩に誘われたのがきっかけだったという。売人だった頃は暴力団関係者からキロ単位で覚醒剤を預かり、1グラムを2万〜3万円で売りさばいた。当時使った携帯電話には、薬物の購入客約100人の連絡先が残る。
 覚せい剤取締法違反の罪で何度も服役した。8年前に一度は売人をやめた。捜査当局の取り締まりに協力したこともあったというが「捜査協力を口実にして、他の売人に近づいて覚醒剤を買いたかったのもある。何やってんだと自分でも思う」と打ち明ける。
 自身は、薬物使用による幻覚や幻聴を経験したことがほとんどないという。「自制して使えば普通に社会生活を送れてしまう。だからこそ薬に依存して体を壊すまで続けてしまう」と自戒を込める。
 薬物の常用者には自制心を過信するケースが多いとされる。自らの経験を踏まえ、男性は「薬物をやめられないのは、最後の最後で薬物につながる人間関係を切る勇気を持てないから。売人はそれを分かっている。依存からは簡単には抜けられない」と言い切った。

◎「精神依存」回復に壁

 薬物犯罪のうち7割を占める覚醒剤事件は再犯率が6割を超え、依存性の高さが指摘されている。依存を乗り越える手だてはあるのか−。薬物依存症のリハビリ施設「仙台ダルク」(仙台市)の飯室勉代表(55)は「薬物に頼る心の闇に向き合う『治療』をしなければ、再び手を出してしまう」と強調する。
 自身も薬物依存に苦しんだ過去を持つ飯室代表は覚醒剤を絶ち、24年になる。「誰しもが人に言いたくない過去やコンプレックスを抱えているが、依存者はそのストレスを上手に発散できず、薬物の快感でごまかしてしまう」と言う。
 覚醒剤をはじめ依存性のある薬物は離脱症状の苦痛を避けるために使用を繰り返す「身体依存」、脳が快感を忘れられず執着する「精神依存」を招くとされる。刑務所で身体依存を脱しても出所後に再び使用してしまう人が多いのは、精神依存からの回復に高い壁があるためだ。
 13日に仙台地裁であった40代男の公判。被告人質問で男は「覚醒剤は年数回、気晴らしで使っただけ。欲求はコントロールできる。意思を強く持って薬をやめる」と強調した。
 専門機関への相談について「考えていない」と述べた男に対し、裁判官は「自分でコントロールできると思っているうちは(使用を)繰り返しますよ」と諭した。自制心だけで依存を克服するのは容易ではない。
 ダルクでは、依存症の当事者同士が集うミーティングを通じた回復プログラムを提供している。
 当事者は「またやってしまった」と罪悪感を繰り返し抱き、自己肯定感を持てなくなっているという。飯室代表は「薬物に頼る正直な動機を他者に打ち明け、ありのままの自分を肯定できるかが回復の鍵になる」と語る。

[国際麻薬乱用撲滅デー]1987年6月、国連の国際麻薬会議で薬物の乱用や不正取引防止の国際協力を進める政治宣言が採択されたことを記念して制定された。警察庁によると国内では2018年、覚醒剤事件の摘発人数が約9900人で00年から半減したのに対し、大麻取締法違反の摘発は約3600人と14年から倍増した。


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2019年06月26日水曜日


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