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<商業捕鯨の針路>石巻・鮎川から(5完)水産業再興 起爆剤に/インタビュー 元IWC政府代表 森下丈二氏

[もりした・じょうじ]1957年大阪府生まれ。京都大卒業後、82年に水産庁入庁。漁業交渉官などを経て2013年にIWC日本政府代表。16年4月から東京海洋大教授。

 31年ぶりの商業捕鯨が1日、再開する。石巻市鮎川など全国の捕鯨基地が地域の再興に期待を寄せる一方、反捕鯨国の反発や鯨肉の消費減など不安要素もある。国際捕鯨委員会(IWC)日本政府代表を務めた森下丈二東京海洋大教授(国際海洋政策)に課題と展望を聞いた。(聞き手は石巻総局・関根梢)

 −IWC脱退の理由は。
■ 高いハードル
 「捕鯨国と反捕鯨国の和平交渉の動きは過去に何度かあり、沿岸捕鯨を認める代わりに南極海や公海から撤退する内容に近づいた。だが、反捕鯨側に利があっても賛成しない国が4分の1を超えている。(重要事項決定に必要な)4分の3の賛成を得るハードルは高く、通るとも思えない」

 −沿岸捕鯨が認められる可能性はなかったか。
■ 脱退は出発点
 「認められても未来永劫(えいごう)安泰ではない。気候変動や海洋汚染を理由に、さらに厳しい条件を課される恐れもある。長年の交渉経験と失敗からの決定だ。脱退はゴールではなくスタート。国際社会で胸を張って新しいビジョンを示し、後ろ指をさされずに捕鯨を行う仕組みを作る出発点だ」

 −新しいビジョンとは。
 「今の世界標準ではクジラは環境保護の象徴だ。捕鯨を支持する途上国は反捕鯨活動を『環境帝国主義』と表現する。欧米の考え方や規範を押し付けるのは多様性の否定であり、食料安全保障や環境の面でも問題がある。(日本政府として)IWCにオブザーバーとして残り、積極的に議論していくつもりだ」

 −商業捕鯨再開は国際法違反との指摘がある。
 「国連海洋法条約65条は鯨類の保全や管理などを『国際機関を通じて活動する』と幅のある表現をしている。1982年にIWCを脱退したカナダは科学委員会にオブザーバーを出すことで要件を満たし、これまで訴訟に発展していない」

 −日本が国際裁判に提訴される懸念はないか。
 「リスクは承知しているが、クジラの利用を否定する国際法はない。透明性を確保し、リスクを最小化する努力はしてきた」
 −事業者は採算性を不安視している。

 「調査捕鯨と商業捕鯨ではコスト構造が異なる。調査は対象海域であらかじめルートを決め、クジラの多寡にかかわらず操業する。捕獲するクジラは無作為抽出したもの。商業捕鯨は高密度海域に船を出し大きなクジラを捕ることができる」

 −鯨肉の国内の消費量は激減している。
■ 消費に地域性
 「日本中の人に鯨肉を食べる機会を提供しようとスーパーに置いてもらう努力をしてきた。ただ、鯨肉の消費は地域性が高い。鯨食の盛んな地域でまとまった量を流通させるべきだ」

 −石巻市鮎川など捕鯨のまちの展望をどう描くか。
 「鯨食文化が根付く地域には鯨肉を扱う技術がある。多様な部位のおいしい鯨肉が食べられる町があれば、国内外から客が集まる可能性は十分ある」
 「現状維持ではないので不安があるのは当然だが(捕鯨関係者には)その中にチャンスを見て挑戦してほしい。右肩下がりの水産業の起爆剤になってほしい」


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2019年07月01日月曜日


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