福島のニュース

<聖火への願い 被災地から>東北のプライド発信 福島県クリエーティブディレクター・箭内道彦さん

「世界中に東北の今を知ってもらいたい」と語る箭内さん=東京都目黒区

 「復興五輪」をうたう2020年東京五輪・パラリンピックは24日で開幕まで1年となった。東日本大震災の被災地では今も600世帯以上がプレハブ仮設住宅で暮らし、東京電力福島第1原発事故の影響が続く。掲げた理念は実現するのか−。五輪に関わる東北関係者に思いを聞いた。

 <福島県のクリエーティブディレクター箭内道彦さん(55)は、東京五輪・パラリンピックの公式文化プログラムで東北復興をテーマにしたイベントを手掛ける>

 6年前の五輪開催決定の知らせは、復興イベントを開いていた盛岡市で聞いた。テレビの熱狂をよそに、友人たちと「資材と人が東京に流れ、東北の復興が遅れるのではないか」と心配していた。復興が見えづらくなったと思っていたころ、声が掛かった。

<火中の栗拾う>
 五輪は世界が注目するイベント。「復興五輪」をうたうなら、文字通り「復興五輪」にして見届けたい。東北に利益をもたらし、世界に正しい姿を知らせたい。「やってよかった」と思える五輪にしたい。友人たちから異論はあったが、火中の栗を拾う思いで引き受けた。

 <来年5〜7月、東北の子どもたちをイメージした巨大人形モッコが、東京を目指し陸前高田市、岩沼市、南相馬市などを旅する。人々からメッセージを集め、東北の現在の姿を世界に発信する>

 人形は、岩手、宮城、福島の子どもが描いたイラストが基になっている。子どもたちには、お笑い芸人で芥川賞作家の又吉直樹さんが書いた「モッコの物語」の朗読を聞き、姿をイメージしてもらった。モッコは「ひょうきん者」を意味する宮城の方言「おだづもっこ」に由来し、脚本家の宮藤官九郎さん(栗原市出身)が名付けた。

<我慢強さ表現>
 モッコは、ギョロリとした目で近寄り難いが、共に旅をするうちに距離が縮まる−。僕はそこに我慢強く復興を支え、苦しさを引き受けてきた東北人を重ね合わせている。

 <イベントでは大きな旗にメッセージを寄せ書きし、それを基に歌を作る>

 海外では、福島には人が住んでいないと思っている人もいる。正しい姿を伝えたい。光と影、笑顔と不安。アートやクリエーティブな活動は、いろいろな思いを大きく緩やかに包み込むことができる。いろいろなメッセージを寄せてほしい。

 <間もなく震災と原発事故から8年半になる>

 福島県大熊町の一部は避難指示が解除されたが、今も仮設住宅暮らしの人がいる。震災で多くの人が正解のない場所に飛び込んだ。立場の違いで相互不信が芽生え、溝や壁も生まれた。出した答えが違っていても、それぞれの選択は尊重されるべきであり、みんな正解だ。
 僕は東北に生まれてよかった。東北で生まれなければ出会えなかった人や物があった。古里に誇りを持ち、発信する「東北プライド」を訴えたい。(報道部・佐藤素子)

[やない・みちひこ]1964年、郡山市生まれ。東京芸大卒。90年広告代理店「博報堂」に入社。CMプランナーとして活動後、2003年に独立。16年東京芸大美術学部デザイン学科准教授、19年4月同教授。15年から福島県クリエーティブディレクターを務める。東京都在住。


関連ページ: 福島 社会 東京五輪

2019年07月24日水曜日


先頭に戻る