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<東京五輪 受け継ぐレガシー>東北、助け合い強さ追求

東京五輪出場を目指し練習に励む小野(中央)。東北を代表する選手の一人だ=6月26日、石川県小松市

 1964年の東京五輪で培われた競技の土壌は、今もなお東北に生きている。レガシー(遺産)を受け継ぎ、新たなアスリートを生み続ける現場を追う。
(2020年東京五輪取材班)

代表候補に7人

 東北を制するものは全国を制す。高校カヌー・スプリントにはそんな言葉がある。東北を出て全国の大学へ進んだ選手たちは今、東京五輪を目指す日本代表候補に名を連ねる。
 6月、石川県小松市の代表合宿地で代表候補23人が練習漬けの日々を送っていた。うち東北出身は7人。一大勢力だ。
 女子カヤックの小野祐佳(29)=秋田県体協=は昨秋、ジャカルタ・アジア大会のシングル、ペアで銅メダルに輝き、スプリント勢で最も東京五輪に近い位置にいる。力強さと水をつかむ技術を兼ね備える。
 「東北で良かった」。小野は言う。母校の秋田・本荘高にカヌー部はない。競り合う相手がいなければ力はつかない。
 手を差し伸べたのは山形・谷地高、宮城・中新田高、宮城・石巻商高、岩手・不来方高など、東北のライバル校だった。「同じ東北というくくりで合同合宿に入れてもらった。本当の意味での切磋琢磨(せっさたくま)があった」
 中新田高出身の小松正治(27)は「ジュニア代表は全員東北勢だった」と懐かしそう。不来方高だった近村健太(27)は「東北は先生たちがすごいんだ」と力を込める。
 そんな「先生」の代表格が木村文浩・日本代表強化委員長(53)だ。石巻商高出身。谷地高で長年指導し、全国屈指の強豪校に育て上げた。今春から代表チームにいる。
 東北の強さの秘密は何か。「冬の東北は雪や風で水上練習ができない。その分、陸上でしっかり基礎固めができる」。不利な環境を逆手に取った。
 ライバル校同士による合同合宿は他地域では珍しい。指導者同士も情報を共有する。駆け引きなく、互いに助け合う姿勢。「それは石巻からのつながり」と木村委員長は語る。

「俺がつくった」

 1964年東京五輪。カヌーカヤックのコーチを務めたのは石巻市の寿福寺住職、深草喬雄さん(87)だった。「日本のカヌーは俺がつくった」。その言葉は決して大げさではない。
 「大正大でカヌーをやってて、石巻に戻ってぶらぶらしてたら日本連盟から東京五輪のコーチの要請が来たんだ。強かったわけではなく、人がいなかったの」
 技術は独学で考えた。石巻商高も指導し、五輪出場者も育てた。どうすればうまくこげるか。選手のフォームを見て、適切な助言を与える。
 木村委員長をはじめ東北の指導者の多くは深草コーチの教え子か、そのまた教え子。東北以外でも教えを請われれば、快く教えてきた。教え子は全国にいる。
 東北の助け合う姿勢は、人と争うのが嫌いな深草さんの考えを色濃く反映している。指導者、選手の切磋琢磨が続く限り、その強さが色あせることはない。
 「ええことじゃねえの。東北を制するものは日本を制す」。深草さんは高らかに笑う。


2019年08月04日日曜日


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