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<あなたに伝えたい>商い継続安心してね

フノリに付いたちりを丁寧に取り除く美恵子さん

 ◎石田美恵子さん(宮城県南三陸町)から進さんへ

 宮城県南三陸町志津川の石田美恵子さん(62)は東日本大震災で海産物卸売業を共に営んでいた夫進さん=当時(57)=を失った。隣の登米市の取引先から車で同町に戻り、津波に巻き込まれたとみられる。

 地震が発生する15分ほど前、仕事先の進さんから自宅に電話がかかってきた。「こっちは雪が降ってきた」「こっちで降る前に帰ってきてね」。いつもと変わらない夫婦のやりとりが最後の会話になった。
 震災から5日後、進さんが乗っていたライトバンがJR志津川駅の近くで見つかった。車体がひっくり返り、エンジンキーは差し込まれたまま。シートベルトは外れ、その場に進さんの姿はなかった。
 「津波が怖くて逃げたと思う。でも、せめて車の中にいてくれれば」。家族で何度も捜したが、今も行方は分からない。
 葬式は震災の年の11月に済ませた。それまでは進さんが玄関の扉を開け、家に帰ってくる夢ばかり見た。まもなく震災から9度目のお盆。「帰ってきてほしい」という願いは変わらない。
 進さんは海産物卸売業「石田商店」の2代目。ノリや煮干し、ヒジキをスーパーやすし店に納めていた。口数は少なく職人肌、人が嫌がることも進んでこなした。
 美恵子さんとはお見合いで結婚した。2人の子どもを育てながら、夫婦で力を合わせて商売を切り盛りしてきた。
 仕事が忙しく、遠出はあまりできなかった。「60歳になったらキャンピングカーで二人でゆっくり旅をしよう」。苦労を掛けてきた美恵子さんのため、進さんが温めていた夢はかなわなかった。
 今は美恵子さんが一人で商売を続ける。震災後、仕入れ先に残っていたノリや煮干しの在庫を見て、「そのままにしておけない」と再開を決意。津波で流された自宅跡地にプレハブの作業場を建て、商品の梱包(こんぽう)から配達まで全てをこなす。
 震災後、得意先のすし店で掛けられた言葉が忘れられない。「お宅から仕入れるノリが一番いい」。進さんが顧客と固い信頼を築いていたことを強く感じた。
 「進さんのおかげで、商売を続けることができている。周囲の人たちにも良くしてもらっているから安心してね」。天国の夫に背中を押してもらい、この先も歩んでいく。


2019年08月11日日曜日


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