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<仙台いやすこ歩き>(106)天然酵母パン/味わいフランス仕込み

 「確かあの角を曲がったところだったような」。古くからの街のどこにでもありそうな細道に、さりげなく出現する素朴な店が今回の「自家製天然酵母パンの店 バーニャ」(仙台市青葉区柏木)だ。
 ガラリと戸を引けば、木の棚に並ぶさまざまな形のパンたちに、大ファンという画伯ならずとも目はあっちにいったりこっちにいったり。香りとともに迎えてくれたのは店主の高橋淳さん(49)だ。

 「ここでお店を開いたのはいつですか」と問えば「24年前のことで、ここにはずーっと住んでます」の答え。そのずーっと前とは、何と江戸時代からだそう。
 「先祖は漆塗りの職人で、仙台城の壁も造ったそうです」。そこにすかさず入った画伯の「昔は土を練って、今は粉を練っているんですね」のひと言に、みんなが笑顔でうなずく。
 高橋さんのお父さんがパン好きとあって、パンの朝食で一日が始まる家庭で育ち、自然とパン職人の道を歩んでいた。山形市のパン屋さんなどで修業し、25歳で店を持つことに。その際、本場パリへ旅に出た。
 1週間ただ食べ歩き、自分が作りたいパンを探した。作りたいパンとは、とりもなおさず自分が好きなパン。だから見つけるのは早かった。原料や仕入れ先を教えてもらうが自分ではどうすることもできず、2度目のフランス行きには、東京の輸入業者に同行してもらうことになった。
 パリには、目指すパン探しと、もう一つ目的があった。「憧れていたパン屋のおじいさんに会いに行ったんです。日本からやってきたのかと喜んでくれて、まずは写真を撮ろうと記念撮影になったんです」。その大切な一枚が店内に飾ってあった。
 おじいさんは、25年間にわたってフランス大統領のパンを作ってきたという経歴の持ち主。その人の言葉が高橋さんのパン作りの基本にある。それは「お客さんの健康はパン屋が守る」。原料の細かいところにまで気を配るバーニャの原点がここにあった。
 フランス産小麦を使っているのも「日本産に比べてグルテンが7分の1〜5分の1と少ない。だからフランス人は毎日パンを食べても痛風にならないんです」。オーガニックを追求し、ショートニングも野菜由来のものを使っている。
 未明の午前2時半から12時間焼きっぱなしで作られるパンは全部で70種! 「あっちの棚が16世紀と変わらない粉と水と塩だけで作ったバゲットやカンパーニュで、こっちの棚は1920年以降に誕生したパンです」
 作っているのは高橋さんと76歳のお父さん、弟さんで、売っているのはお母さんや奥さん。そんな話を聞いている間もお客さんたちはひっきりなしに訪れる。高橋さんと語らいながら大切に手渡されていくパンたち。きっと、何百年と高橋家にすみ着いてきた多彩な酵母たちも、パンの味わいに複雑さと深みをもたらしているに違いない。

 取材後に最初にかじったバゲットの、もちもちとかむほどに広がる深い甘み。何にも付けたくない食パンのおいしさ。今度の休みには、あの角を曲がって朝食のパンを買いに行こう。

◎16世紀に鉄砲と共に伝来

 小麦の栽培が始まったのは西アジアで、最初は粉にして薄く伸ばし、焼いて食べていたとされる。エジプトに小麦が伝えられ、そこで偶然、発酵させたパンが誕生。さらにギリシャからローマ、ヨーロッパ全土に広がっていく。1世紀、古代ローマ時代のポンペイの遺跡からはパン屋が発掘されている。
 日本へは16世紀、種子島に漂着したポルトガル船によって鉄砲と共に伝わった。そのため、日本語の「パン」はポルトガル語「p〓o」に由来する。
 パンは小麦粉などの穀物粉に水、塩などを加えて作った生地を、発酵により膨張させた後、焼いて製造される。そのために不可欠なのが酵母だ。
 たんばく質やビタミンに富んだ微生物で、穀物粉に含まれる糖分と水を結び付け、生地を発酵させふくらませる働きがある。パンならではの香りや微妙な味も酵母のなせる業。酵母には、野生の酵母を培養した「天然酵母」とパン作りに適した酵母を純粋培養した「イースト」がある。
               ◇
 土地には、その土地ならではの食があります。自他共に認める「いやすこ(仙台弁で食いしん坊のこと)」コンビ、仙台市在住のコピーライター(愛称「みい」)とイラストレーター(愛称「画伯」)が、仙台の食を求めて東へ、西へ。歩いて出合ったおいしい話をお届けします。
=次回は10月21日掲載=

〓は「a」の上にティル(~)付けた文字


2019年09月02日月曜日


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