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早朝の花火に「やめて」の声 運動会知らせる東北の風習、仙台では見送る学校増加

ビルやマンションに囲まれた仙台市東二番丁小(手前中央)。運動会で花火は打ち上げず、メール送信などで対応する

 「どうして宮城県では運動会の日の朝に花火を鳴らすの?」。聴覚に障害があり、破裂音が苦痛だという訴えが「読者とともに 特別報道室」に寄せられた。取材を進めると、花火の打ち上げは県内全域に広がる風習だが、音に過敏な最近の社会風潮を反映し、都市部を中心に途絶えつつあることが分かった。

 宮城県の小中学校では毎年春か秋に、学校独自の運動会や地域住民も参加する学区民(地区民)運動会が開かれる。打ち上げ花火は当日早朝、校長や町内会長らが気象情報を勘案して決行を決めたことを住民に知らせる合図。複数の学校関係者によると通常午前6時〜6時半ごろ、花火業者が打ち上げる。費用は1回につき約1万円で、各自治体の公費で賄われる。
 だが、その破裂音に苦悩する住民がいる。
 自閉スペクトラム症で聴覚が過敏な家事手伝いの女性(31)=仙台市泉区=は「予告なしに鳴るので、びっくりして怖くなる。ない方がいい」と強い不安を訴える。東北文化学園大(青葉区)の高卓輝(たか とう ひかる)教授(聴覚障害学)は「聴覚過敏の人はそうでない人より音を大きく感じる。当事者には大変な苦痛なので、社会が配慮する必要がある」と指摘する。
 仙台市教委などによると、夜勤明けという住民から「うるさくて眠れない」と学校に苦情が来ることも珍しくないという。このため全小中学校を対象に打ち上げ状況を調査し、今年6月にまとめたところ、186校中90校(運動会の複数実施など重複を含む)が見送っていることが分かった。
 その一つ、JR仙台駅に近い東六番丁小(青葉区)は「周辺にマンションが立ち並び、花火を上げるのは難しい」と話す。都市化する立地環境に対応して、同じく市中心部にある東二番丁小(同)などでも、保護者宛ての電子メールの一斉送信や町内会組織の連絡網を使うなど、代替手段に切り替えつつある。
 仙台、石巻、登米地区の教育事務所長や県小学校長会長を歴任し、県内の学校事情に詳しい百井崇岩沼市教育長は「朝のせわしない時間に弁当を作るかどうか気をもむ家庭もあり、瞬時に広範囲に伝わる花火は効果的だ。年に一度だけの『地域のお祭り』と考え、見守ってもらえないだろうか」と理解を求める。


◎旧陸軍の招魂祭起源か 運動場整備で東北一円に

 早朝に響く破裂音への苦情から、仙台市中心部などで廃れつつある運動会決行を知らせる花火。その起源は明治時代の旧陸軍行事にあり、学校の運動場整備に伴い東北各地に広がったとみられる。
 郷土史研究家の故逸見英夫さんの著書「仙台はじめて物語」によると、1896(明治29)年10月16日に宮城野原陸軍練兵場(現宮城野原公園総合運動場周辺)で市内9小中学校の連合運動会があり、午前6時に花火が打ち上げられたと記述がある。
 市歴史民俗資料館によると、市内ではこの4年前、旧陸軍第二師団が戦死者を慰霊して銃剣術などを競う招魂祭を行い、開始前に花火を打ち上げたことが分かっている。渡辺直登学芸員は「連合運動会はお祭りの要素が強いので、祭礼のために打ち上げた招魂祭の流れをくんだのではないか」と推察する。
 1900年の小学校令改正で体操が必須科目になり、各校に運動場設置が義務付けられると、学校対抗戦だった連合運動会は学校単位で開かれる運動会に変わった。これにより、花火も各校で打ち上げられるようになったと思われる。
 東北各県教委によると、花火を打ち上げる伝統は6県全県である。このため、そうした風習のない東京都心などから転居した住民が明け方の爆音に驚き、警察や消防に通報した事例もあったという。
 宮城県南の小学校の元校長(65)は「今は花火どころか、休み時間の児童のはしゃぎ声さえ問題視される時代。運動会の朝の風習は、仙台市中心部のようにいずれはなくなるのだろう」と話す。
(桜田賢一)

運動会の花火の源流になったとされる招魂祭を描いた絵。左上に花火が見られる

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2019年09月17日火曜日


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