福島のニュース

原発事故前の大津波予測可能性、「長期評価」の信頼性が鍵 東電旧経営陣に19日判決

第1原発の浸水想定を記した東電の内部資料。敷地南側で「津波高さO.P.(海抜)15.7m」とある

 東京電力福島第1原発事故発生前、旧経営陣は大津波を予測できたのか。強制起訴された3人の刑事責任の有無を見極める鍵は国が2002年7月に公表した地震予測「長期評価」の信頼性にある。「信頼できる」と判断されれば対策に乗り出さなかった3人に不利となり、予測に疑義が出されれば無罪の可能性が高まる。37回の公判は予測をどう捉えるかに審理が集中した。
 長期評価を基に東電子会社は08年3月、津波高「最大15.7メートル」と試算。海抜10メートルの原発敷地を優に超える数字で、東電幹部らは同年6月、当時原子力・立地本部副本部長だった武藤栄被告(69)に報告した。
 武藤被告は同年8月、本部長を務めていた武黒一郎被告(73)に試算を伝えたとされる。09年2月には会長の勝俣恒久被告(79)に幹部が「14メートル程度の津波が来る可能性があるという人もいる」などと報告した。
 だが武藤被告は2人への報告に先立つ08年7月、津波対策を保留する方針を決めた。専門家でつくる土木学会に試算方法の検討を委ね、対策が実施されないまま事故当日を迎えた。
 公判で武藤被告は判断理由を「社内で分からないことは専門家に意見を聞いて判断することが適切」と説明。武黒被告も同様で、勝俣被告は「信頼性のないものをベースに企業行動は取れない」と主張した。
 一方、東電の津波対策担当者は「国の機関による長期評価で、多くの学者が内容を支持した。想定に取り入れるべきだと思った」と証言。検察側は「十分な科学的根拠があり、3人は情報に注意を傾け対策の必要性を認識すべきだった」と位置付けた。
 福島沖海溝沿いでは過去400年間に津波地震の発生がなく、証言台に立った専門家の見解も分かれた。
 今村文彦東北大教授(津波工学)は「長期評価には違和感があり、もっと精査すべきだと感じた」などと説明。一方、長期評価の策定に関わった島崎邦彦東大名誉教授(地震学)は「信頼性を否定する議論はされておらず、長期評価に基づく対策をすれば事故は防げた」と指摘した。
 民事訴訟では「長期評価は専門家の間で正当な見解と是認され、信頼性を疑うべき事情はない」(福島地裁判決)などと判断されている。元京都地検検事正の古川元晴弁護士は「実際に起きるまで予測に異論があるのは当然。予測の確実性に加え、原発事業者に求められる責任をどう判断するかが焦点だ」と語る。

[長期評価]1995年の阪神・淡路大震災を契機に国が設置した「地震調査研究推進本部」が公表する地震の規模や発生確率の予測。過去の記録などを基に地震や地形、地質など各分野の権威が議論して取りまとめる。国の一元的見解を示し、防災対策を促す狙い。2002年7月公表の長期評価は、福島県沖を含む三陸沖北部から房総沖の間でマグニチュード8前後の地震がどこでも発生する恐れがあるとし、確率を「今後30年以内に20%程度」と予測した。


2019年09月18日水曜日


先頭に戻る