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<虚像の「15.7m」>東電強制起訴・無罪判決(上)白紙化の夏/経営懸念 対策先送り

無罪判決を不当と訴える福島原発告訴団の支援者ら。刑事責任の所在をはっきりさせたい被災者の願いはかなわなかった=19日午後1時20分ごろ、東京地裁前

 東京電力福島第1原発事故の刑事責任を巡り、東京地裁は19日の判決で「大津波は予測できなかった」として強制起訴された旧経営陣を免責した。事故前に示されていたはずの「15.7メートル」の津波予測は虚像だったのか−。判決と公判記録を基に、津波対策を「先送り」した原発事業者の意思決定過程の核心を描く。
(福島総局・斉藤隼人、近藤遼裕、報道部・柴崎吉敬)

■研究を提案

 主文が読み上げられた瞬間も微動だにしなかった。
 裁判長に促されて被告席に戻る際、被告の武藤栄元副社長(69)は騒然とする傍聴席を一目見た。直前まで硬かった表情には安堵(あんど)がにじみ、余裕すら漂っていた。
 「大変多くの皆さま方に多大なご迷惑を掛けました。当時の役員として改めて深くおわび申し上げます」
 閉廷後間もなく武藤氏が報道各社に出した談話は、A4判用紙1枚にわずか3行。勝俣恒久元会長(79)、武黒一郎元副社長(73)の両被告も同様に「迷惑を掛けたことへのおわび」を短く表明した。
 武藤氏は津波対策を検討した現場から最も頻繁に報告を受け、対策の保留を判断した「キーマン」と見られていた。
 2008年6月10日、東電の津波対策担当者は「最大15.7メートル」の津波が原発を襲うとの試算を武藤氏に伝えた。従来想定の3倍近く、海抜10メートルの原発敷地が浸水する規模だった。
 試算は国の地震予測が根拠となった。阪神・淡路大震災後、国は防災強化を促すため地震学の権威らの議論を基に一元的な見解を公表するようになった。
 担当者は「国の機関による評価であり、取り入れるべきだと思った」と法廷で証言。現場レベルではそうした認識が共有され、防潮壁建設など対策の検討も進めていたとされる。
 だが再び担当者らが一堂に会した同年7月31日、武藤氏は提案した。「研究を実施しよう」
 外部機関に数年単位の検討を委ね、対策を事実上先送りした瞬間だった。国の予測に基づき津波に備える方針は同年2月、被告3人の異論なく承認されたはずだった。担当者は「予想していなかった結論で、力が抜けた」と振り返る。

■調書を一蹴

 なぜ対策は実施されなかったのか。公判で、その核心が初めて明かされた。
 「新潟県中越沖地震(07年)で柏崎刈羽原発が停止し、経営が悪化していた。さらに(対策の実施で)福島第1も止まるのは何とか避けたかった」
 原子力設備管理部ナンバー2の元幹部は調書で、判断の背景に経営事情があったことを告白した。
 しかし東京地裁は詳しい理由を示さずに調書を「疑義がある」と一蹴。予測自体も「客観的な信頼性はなかった」と結論付け、武藤氏の判断を追認した。
 「想定津波高が10メートル以下だったら、(安価で済むため)国の予測を踏まえた対策を取っていただろう」。元幹部はこう述べ、後悔の念を口にしている。
 被害者側の代理人の海渡雄一弁護士は判決の問題性を強く批判した。「国家機関の予測を考慮しなくていいと裁判所が言ってしまった。原発事故を許すような異常な判断だ」


2019年09月21日土曜日


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