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<東電強制起訴・無罪判決>識者の視点/社会通念の範囲疑問

水野智幸(みずの・ともゆき)1962年、仙台市生まれ。東大法学部卒。88年から裁判官として主に刑事事件を担当し、千葉地裁時代に裁判員裁判で初の全面無罪判決を言い渡した。2012年から現職。専門は刑事法。16年から弁護士。

 東京電力福島第1原発事故の刑事責任を巡り、東京地裁は旧経営陣3人に無罪判決を言い渡した。「事故当時の社会通念からすれば、原発は絶対の安全を求められていたわけではない」と判断した司法。社会は原発とどう向き合うべきか。判決への評価と現実の課題を識者に聞いた。(聞き手は福島総局・斉藤隼人、近藤遼裕)

◎元裁判官・法政大法科大学院教授 水野智幸氏(57)

 原発の安全性に対する当時の「社会通念」が過失判断の基礎となるが、地裁はこの社会通念を「法令の規制」のみとした。責任追及の範囲をあまりに狭める考え方だ。原発反対論は事故前からあり、国側の意見にすぎない法令を社会通念と言うことには疑問がある。
 人工知能や自動運転、遺伝子操作など法令上の規制が追いつかない先端分野は多い。今後はリスク管理の在り方について、社会的な議論が必要になるだろう。
 判決は「原発に極めて高度の安全性は求められていない」とした。これは市民にとって意外な指摘ではないか。実際に深刻な事故が起きてもこうした司法判断がされることを忘れず、今後は国や事業者の説明を冷静に見極め、自分の行動を決めていくしかない。
 本来、大規模事故の調査は強制力を持つ事故調査委員会方式が妥当だ。責任を追及しない代わりに真実を述べてもらう制度で、諸外国にはある。再発防止の観点からは最も望ましい。
 今回は複数の調査委が設置されたが、調査に強制力がなく不十分なまま終わった。刑事裁判は大事故の原因究明や再発防止を目的とするには決して適切ではないが、現状はやむを得ない。


2019年09月23日月曜日


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