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<手探りの自治>災害公営住宅は今(2)個人情報/近所の輪 見守り模索

卸町災害公営住宅を見上げる水戸さん。個人情報の「壁」に悩む=仙台市若林区

 鉄筋9階の建物の中で、見えない「壁」が住民たちに立ちはだかる。
 98戸に約200人が暮らす仙台市若林区の卸町災害公営住宅。この春、1人暮らしの90代女性が体調を崩し、救急隊員が玄関のドアをこじ開けて救出した。
 「入退院を繰り返していることは何となく察していたが…。他にも気を配るべき人がいるかもしれないが、情報が無い」
 自治会長の水戸武雄さん(77)がため息をつく。

■名簿作り苦戦

 個人情報保護を理由に、仙台市は入居者に他の住民の氏名や家族構成を一切明かしていない。水戸さんら自治会役員は2016年3月の入居開始以来、日々の交流を通じて住民の人となりを知ろうと努めてきた。
 体調に不安のある独居の高齢者は数人いるが、閉じこもりがちな人の事情は詳しく分からない。水戸さんは「民生委員や市の福祉部署が把握しているとはいえ、住民同士でも気に掛けたい」と嘆く。
 河北新報社が災害公営住宅を整備した岩手、宮城、福島3県の55市町村と岩手、福島両県に実施したアンケートによると、仙台市をはじめ45自治体が入居者の自治会に住民の情報を提供していない。残り12自治体も、伝えるのは主に世帯主の氏名や家族構成にとどまる。
 3県で完成した災害公営住宅のうち、人間関係が希薄になりがちな集合住宅型が7割を占める。被災前の地域はばらばら。名前も分からない被災者が集まる中、自治会の多くは名簿作りすら苦戦してきた。
 「壁」を乗り越えるにはどうすればいいのか。プライバシーに配慮しつつ独居の高齢者ら弱者の存在を把握し、近所付き合いの輪で見守る取り組みが始まっている。

■助け合い育む

 石巻市の一般社団法人「石巻じちれん」は緊急連絡先の電話番号を記入し、携帯する「つながりカード」の活用を呼び掛ける。会長の増田敬さん(68)が暮らす災害公営住宅を中心に約20人が所持している。
 カード利用者は三つの電話番号をじちれんに登録し、うち一つは近所の人から選ぶ仕組みだ。増田さんは「1人暮らしの人が室内で倒れても、誰かが普段から関心を持っていなければ発見できない。助け合う意識を育むためにもカードを広めたい」と語る。
 自治体も動きだした。岩手県は県営の災害公営住宅に入る1335世帯に対し、自治会や立地先の市町村の要請があった場合に氏名や生年月日、緊急時の支援の必要性などを伝えてもよいか確認を進めている。
 8月までに710世帯が回答。世帯主の氏名の公開には9割近い616世帯、同居者についても298世帯が同意した。建築住宅課は「最低限の情報を共有し、避難訓練など自治会活動に取り組む下地をつくりたい」と狙いを説明する。
 個人情報の保護と「ご近所さん」の安心。両立を目指して模索が続く。
(報道部・東野滋)

 岩手、宮城、福島3県で98.5%が完成し、約5万人が暮らす災害公営住宅(復興公営住宅)。集合住宅で初めて生活する被災者も多く、住民の手で運営する道のりは平たんでない。壁にぶつかりながら模索する現場をリポートする。(5回続き)


2019年09月25日水曜日


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