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最新医療に「天才」挑む 瀬名秀明さん新著「小説ブラック・ジャック」 AIやiPS細胞、生体肝移植など5テーマ

「『漫画の神様』の思考を少したどれた気がします。貴重な体験でした」と話す瀬名さん=仙台市泉区の事務所
「小説 ブラック・ジャック」(エイプス・ノベルス、1650円)

 想像したことはありませんか? 顔に大きな縫合痕が残るあの天才外科医が人工知能(AI)の手術ロボットと勝負したら。人工多能性幹細胞(iPS細胞)で彼なら難病患者をどう救うのか。仙台市の作家瀬名秀明さん(51)の新著「小説 ブラック・ジャック」は、こんなとりとめのない空想も、最新の科学知見を踏まえたリアルな医療ドラマに展開してゆく。
(生活文化部・阿曽恵)

■50周年記念企画

 故手塚治虫さんの漫画「ブラック・ジャック」(B・J)を約10年間連載した週刊少年チャンピオン(秋田書店)の創刊50周年を記念した企画。「B・Jを現代によみがえらせた小説を」との打診に、瀬名さんは「小学生の時から好きで全て読んでいたので、ぜひと引き受けました」と笑う。
 孤高、無免許のモグリ医者、法外な報酬請求といった原作の設定はそのままに「1970年代の漫画では公害病や脳移植が多かった。今なら何だろう」とテーマを絞り込んだ。AIやiPS細胞、生体肝移植、国境なき医師団などを取り入れた5編を構想した。
 第5話「三人目の幸福」ではB・J自身の運命に関わり、過去に固く復讐(ふくしゅう)を誓った男と再会する。やっと見つけた男は末期がんで余命いくばくもなく、漫画でおなじみのドクター・キリコと既に接触していた。患者の依頼に応じて安楽死を遂げさせる、もう一人の「黒い医者」だ。
 復讐を果たすか、神業で助けるか。男の真意を理解したB・Jはギリギリの局面で一人苦悩する。唯一の家族であり助手のピノコは心配でならない。
 「安楽死を合法化した国もありますが、日本では最後まで充実した人生を送るための緩和ケアを否定する選択です。一方でB・Jという天才の登場で寿命も延ばせるのだとすると、やはり緩和ケアの存在意義がなくなってしまいかねない。書くのが難しかったですね。問いを投げ掛ける感じの結末にしました」

■緊迫の手術描写

 瀬名さんは東北大大学院薬学研究科修了の薬学博士。デビュー作の「パラサイト・イヴ」以来、科学技術と人間が織りなす多彩な物語を発表してきた。AIへの造詣も深い。本作では現役医師や京大iPS細胞研究所の協力を得て「医療従事者が読んでも面白い内容になっていると思います」と自信を示す。一刻を争う各編の手術の描写では、ページに緊迫感がみなぎっている。
 本書の執筆に際し、改めて全集に収められた241話を読み直した。「生きることは素晴らしいという一貫した生命観、人生観が込められていました。B・Jが若い人に教え諭すエピソードも多い。作品にも生かしたつもりです」と瀬名さん。
 漫画のノベライズは「小説版ドラえもん のび太と鉄人兵団」に続き2度目となる。「『ドラえもん』では(原作者の)故藤子・F・不二雄先生に合わせてきっちりした文章で書きましたが、今回は手塚先生らしいペンの走り具合を意識して、早く読める文章を心掛けました」。少年時代から敬愛する巨匠の不朽の名作が、また一つ小説に結実した。


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2019年09月26日木曜日


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