福島のニュース

津波の教訓頭に 岩手・大槌生まれの男性が台風避難ためらう90代夫婦を説得、命救う

浸水した村上高也さんの寝室に立つ碇川さん=23日、いわき市小川町高萩

 台風19号に伴う夏井川の氾濫で浸水したいわき市小川町高萩で、衣料品販売店を営む碇川寛さん(72)はためらう近所の高齢者夫婦を半ば強引に避難所へ移動させ、命を救った。東日本大震災の津波で、甚大な被害を受けた岩手県大槌町の生まれ。震災の教訓が頭をよぎり「万が一のことがあれば、悔やみ切れない」と動いた。

■「感謝しかない」

 「あのままでは両親は死んでいた。碇川さんには感謝しかない」。村上高也さん(91)、道子さん(92)夫妻の長女(63)は言う。
 行政区長も務める碇川さんは台風が接近した12日午後、2人暮らしの村上さん方を妻の泰子さん(68)と訪ね、避難を勧めた。道子さんは店のお客さん。日頃から気に掛けていた夫婦だった。
 しかし、2人は「避難しない」と言う。高也さんは10年前から左半身が不自由。大半をベッドで過ごし、避難所が不安だった。
 「早くご飯を食べて寝てしまいな。起きた時には台風も過ぎているよ」。東京に住む長女も自宅にとどまるよう両親に電話で助言していた。碇川さんは長女と電話で話したが「大丈夫だから。避難させないでください」とらちが明かない。
 「放っておくか」。一瞬そう思った碇川さんだが「後悔したくない。見殺しにしない」と思い直す。大勢が津波の犠牲になった大槌町のことが頭にあった。
 親類の養子に入り、いわき育ちだが生まれたのは大槌。震災対応に当たった碇川豊前町長(68)は実弟だ。震災後に何度も大槌に手伝いに行き、全てを奪い去る水の威力を目の当たりにした。

■「最悪」想定して

 12日夕、地元の消防署分遣所の職員3人の力を借りて高也さんを抱え上げて車に載せ、自力で歩ける道子さんと一緒に夫妻で地区の高萩公民館に避難した。その夜、夏井川から押し寄せた濁流は市小川支所周辺を襲い、碇川さんの自宅は水没。村上さん方の浸水も2メートル近くに達した。
 駆け付けた長女は泥だらけになった実家で「甘く見ていた。災害は今まで被害がなかったら大丈夫と考えては駄目」と反省を口にした。高也さんは市内の福祉施設に一時入所し、道子さんは親類方に身を寄せる。
 碇川さんは自宅を片付けながら「避難して何でもなかったら『良かったね』と考えればいいこと。最悪の事態を考えて動いた方がいい」と話した。
(佐藤崇)


2019年10月27日日曜日


先頭に戻る