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ひつぎ浮く室内で7時間 丸森の男性「俺はここで死ぬ」

7時間近く水に漬かりながら助けを待った良一さん。自宅の窓に水の跡が残る=3日、宮城県丸森町小斎

 台風19号の直撃で死者10人、行方不明者1人が出た宮城県丸森町。阿武隈川沿いの同町小斎地区の大内良一さん(64)は、木造平屋の自宅が約1.3メートル床上浸水した。冷蔵庫が倒れ、通夜を控えていたひつぎが浮く。絶望的な状況の中、一家3人が水の中で7時間近く助けを待った。

 10月12日午後11時ごろ、良一さんと妻明美さん(52)は、茶の間で「ゴボゴボ」という音を聞いた。窓にたたきつける猛烈な雨。外は暗闇に包まれていた。
 「何の音だ?」
 良一さんがそう思った瞬間、台所の冷蔵庫がひっくり返った。驚く間もなく畳が浮き上がり、良一さんはいすごと水の中に倒れた。
 良一さんは脳出血の後遺症で左半身が不自由。左脚には器具を着け、歩く際はつえが必要だ。
 「俺はここで死ぬから助けなくていい」。明美さんと一人娘の裕美さん(29)はその言葉を無視し、良一さんを水の中から助け起こした。
 水かさがさらに増す。明美さんが消防に電話をかけたが、SOSが殺到しているのか助けは来そうにない。良一さんは右手だけで、明美さんは両手で浮き上がった机につかまった。裕美さんはベッドがある部屋に移動し、ベッドの上で腰まで水に漬かりながら助けを待った。
 水かさは最終的に床上約1.3メートル。真っすぐ立てない良一さんの顔すれすれまで達した。
 台風が猛威を振るう2日前、良一さんの弟の重男さん(享年59歳)が闘病の末、息を引き取った。通夜は13日。ひつぎは良一さん宅に置かれていた。
 「ああ、弟の所に行ってやれない」。良一さんは浮き上がった畳に左足を挟まれたまま、水に浮かぶひつぎを見詰めた。
 自衛隊の助けが来たのは13日午前6時半ごろ。7時間以上水に漬かった3人の体は冷え切っていた。ひつぎがあることを伝えると、「まずは生きている人が先」。3人はボートで避難所に運ばれた。
 自衛隊が14日にひつぎを運び出し、重男さんは火葬された。築40年以上の自宅で無事だったのは屋根と柱だけだった。
 「あと数十センチ水かさが増していたら…。腰の痛みに耐えかねて座り込んでいたら…」。良一さんは生と死の境目を振り返った。
(天艸央子)


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2019年11月06日水曜日


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