宮城のニュース

「車中死」間一髪逃れる 大崎・鹿島台の女性、車での避難を反省

車が水没した現場で、難を逃れた状況を振り返るはつ江さん=宮城県大郷町

 台風19号が東北を直撃した10月13日未明、宮城県大崎市鹿島台大迫上志田の農業佐藤はつ江さん(64)は間一髪で「車中死」を逃れた。自宅近くの吉田川があふれたと知り、義父の昇さん(91)と軽トラックで避難する途中、道を外れて田んぼに突っ込んだ。辛うじて窓から脱出し、濁流の中、昇さんを抱きかかえて生還した。「油断があった」とはつ江さんは自身の行動を悔やむ。

 「吉田川が越水した。危ないぞ」。13日午前2時半ごろ、はつ江さんの携帯電話に切迫した声が届いた。消防団の一員として、吉田川の見回りに向かった夫の久一さん(65)からだった。
 避難勧告は出ていたが、飼い猫がいて、自宅にとどまっていた。指定避難所は約2.7キロ先。車で10分弱かかる。はつ江さんは約850メートル先の大郷町の大郷大橋への避難を決めた。周囲より高さがあり、車なら1、2分で着く。
 助手席に昇さんと猫を乗せ、軽トラックで飛び出したが、すぐに異変に気付いた。豪雨に視界が遮られ、激しい雨音以外は何も聞こえない。街灯もなく辺りは真っ暗。「毎日通るのに知らない道みたいだ」。言い知れぬ恐怖に襲われた。
 冠水した道路を約300メートル進み、右カーブの下り坂に差し掛かる時だった。水深が30〜40センチとぐっと深くなり、どこが道路か完全に見失った。「早く通り抜けないと危険だ」。気が動転し、勘を頼りにハンドルを切ったが、カーブの前だった。対向車線を越え、約1メートル下の水田に突っ込んだ。
 軽トラックは半分ほど水没し、動けなくなった。脱出を試みるもドアは水圧で開かず、助手席の手動式の窓を開けてようやく外に出た。水深は約140センチ。身長157センチのはつ江さんは爪先立ちで水面から顔を出した。
 昇さんを窓から脱出させ、右腕で抱きかかえた。左腕には猫。残る力を振り絞り、濁流をかき分け、無我夢中で10メートルほど進むと、道路にたどり着いた。水深は膝の高さまで下がった。
 「何してんだ」。聞き慣れた声がした。懐中電灯を照らして近づく3、4人の中に久一さんの姿がいた。「助かった」。心底、胸をなで下ろした。夫の助けを借りて、近くの前川排水機場まで歩き、朝を待った。辺りが明るくなり、田んぼの方を見渡すと、濁った海に軽トラックの白い屋根がかすかに見えた。
 はつ江さんは「自宅2階に避難することも考えたが、少しでも高い場所を目指し、橋に向かった。車で避難することが危険という認識はなかった」と語った。
 台風19号や21号に伴う大雨では、避難中の車中死が目立った。はつ江さんは「義父は足が悪く、歩いて避難することが難しい。車中死の犠牲者の中には、車でしか避難できなかった人もいただろう」と推し量った。
(石川遥一朗)


関連ページ: 宮城 社会

2019年11月05日火曜日


先頭に戻る