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「下流域守る」 観測員の住民、覚悟と誇り胸に水門操作 須賀川・浜尾遊水地

水門の前で台風襲来時を振り返る有我さん=須賀川市の浜尾遊水地

 台風19号で福島県須賀川市浜尾にある浜尾遊水地は、阿武隈川の水を一時的にため込む機能を果たした。勢いを増す雨の中、水門の操作を担ったのは地元浜尾地区の住民6人。リーダー役の有我重房さん(80)は「下流域の住民の命を守るために必死だった」と証言する。
 遊水地は川があふれそうな時にダムとしての役割を担う。浜尾遊水地の面積は75ヘクタールで、東京ドーム約2杯分、230万立方メートルを貯水可能。遊歩道を備え、普段はガマやススキなど草花の群生地にもなっている。
 3カ所ある水門は、国土交通省から観測員に任命された住民6人が管理している。
 有我さんもその一人。10月12日、国交省の出先機関から連絡を受けた有我さんは膝元まで水に漬かり、13日未明まで水門管理と水位観測に苦闘した。「下流域の被害を小さくするのが観測員の仕事。それだけの覚悟と誇りを持って仕事をしている」と言う。
 浜尾遊水地は1998年の「8.27豪雨」を受けて整備が始まった。予定地となった一帯の多くは、高品質なリンゴが採れることで知られた農地。国の打診に地権者約170人全員が大反対した。
 有我さんも最初は「遊水地は下流域のために整備される施設。立地する地元に恩恵がない。先祖代々の土地を守りたい」と反対派の先頭に立っていた。
 国との交渉を通じて治水事業に理解を深め、一転して「土地より命の方が大事だ」と賛成に回り、用地交渉をまとめた。2004年度に遊水地は完成した。
 完成後間もなく、遊水地はダム機能を発揮し下流域の氾濫を防いだ。「流域の首長から感謝の電話をもらったこともある」と有我さんは振り返る。
 しかし今回は遊水地の容量を超える260万立方メートルをためながら、下流域の甚大な被害を防げなかった。
 有我さん宅も1メートル以上の床上浸水被害を受け、1階が泥だらけになった。自然の猛威に無力さを感じることもあるが、命懸けの水門管理が下流の被害をわずかでも防いだと信じる。
 「遊水地のおかげで人口密集地の郡山などで氾濫する時間を遅らせられたのではないか。遊水地が下流域の住民に避難する時間を与えたと考えたい」
(神田一道)


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2019年11月13日水曜日


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