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名物のソースカツ丼再び 台風被災、福島・本宮の老舗食堂復活 秘伝のたれ浸水免れる

ソースカツ丼を盛り付ける松山さん=本宮市本宮仲町の柏屋食堂

 名物ソースカツ丼で知られる福島県本宮市の老舗食堂「柏屋食堂」が、台風19号の浸水被害を乗り越えて復活した。提供に欠かせないソースが奇跡的に見つかり、営業再開へ背中を押した。おかみの松山恵津子さん(71)は「開店を心待ちにしてくれたお客さまの存在が励みになった」と話す。
 柏屋食堂は明治30年代に創業。1番人気のソースカツ丼は80年以上継ぎ足してきた甘いソースと肉厚のカツが絶妙の味わいを醸し、昼時には満員になる人気店だ。松山さん家族とパート従業員計15人で切り盛りしている。
 10月13日、食堂は近くの阿武隈川の氾濫で約2.5メートル浸水。被災直後に駆け付けた松山さんの目に飛び込んだのは、泥だらけの店内だった。カツを揚げる器具がひっくり返り、包丁や食器、テーブルも汚れて使えなくなっていた。
 何よりも、調理場の鍋に保管していた秘伝のソースがこぼれて水に漬かってしまったのが痛かった。「長い年月をかけて築き上げたソースが一瞬で駄目になってしまった」。絶望で目の前が真っ暗になった。
 光明が見えたのは2日後。2リットルのペットボトル3本に詰めたソースが自宅の台所で見つかった。経営する別の飲食店で提供するため保管していた。「これで再開できると思った。営業を続けなさいと背中を押された気がした」
 常連客も再開を応援した。多い日は20人以上が泥だらけの店を訪れ、泥のかき出しやごみの搬出を手伝ってくれた。「またソースカツ丼を食べたい」と書かれた手紙や花を持ってきてくれた人もいた。
 再開したのは11月29日。「いい肉の日」にちなんだ。午前11時の開店前から長蛇の列ができ、開店後は満員の客でにぎわった。おいしそうにソースカツ丼を頬張る客の姿に、カツを揚げる松山さんの手に力が入った。
 市内では被災を機に引っ越したり、廃業を決めたりする商工業者が多い。松山さんは「われわれの頑張る姿が、もう一度頑張ってみようと決意するきっかけになればいい」と語る。

◎商工業者6割再開できず

 台風19号による河川の氾濫で中心部が浸水した本宮市では、被災した商工業者の6割が営業を再開できずにいる。後継ぎがいない経営者ほど廃業を検討している実態もあり、産業の空洞化が懸念される。
 市商工会によると、浸水したのは285事業所。うち今月上旬までに営業再開したのは110事業所程度にとどまる。従業員が多い企業は復旧が早く、家族経営の小規模事業者は遅れているという。
 同市本宮舘ノ越で理髪店を営んでいた佐々木光輝さん(48)は被災直後に店舗の改修工事を業者に依頼したが、まだ見積もりも終わっていない。「業者が住宅再建で忙しく、後回しになっているようだ。再開のめどが立たない」と話す。
 煩雑な事務手続きも障害となる。中心部で飲食店を経営した50代女性はグループ化補助金の活用を検討するが「仲間の集め方が分からない」と困惑する。後継者もおらず「再建費用も未知数。無理に続ける理由はない」と廃業を視野に入れる。
 市商工会の武田与司弘事務局長は「中心部に集中する個人事業主の廃業が相次ぐと地域経済が衰退してしまう。補助金の種類や仕組みを個別に説明し、幅広い選択肢を示して再建を後押ししたい」と話す。


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2019年12月14日土曜日


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