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「それぞれの五輪」山本浩さんに聞く【インタビュー全文掲載】

「予習すれば感動の度合いが違う」と語る山本さん=東京都の国立競技場前
「予習すれば感動の度合いが違う」と語る山本さん=東京都の国立競技場前

 夏に迫った東京五輪。かつて大舞台を彩ってきた人たちも期待に胸を躍らせている。それぞれの「五輪」を大いに語ってもらった(2020年1月に河北新報紙面とオンラインニュースに公開したインタビューの全文を掲載します)。

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[山本 浩(やまもと・ひろし)] 1976年NHK入局。福島局を皮切りに、スポーツアナウンサーとして活躍。86年のサッカー・ワールドカップ、マラドーナ5人抜きの名実況はファンの間で語り草だ。2009年の退職後は法大スポーツ健康学部で教壇に立つ。松江市出身。

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 元NHKアナウンサーの山本浩さん(66)=法大教授=は、1988年のソウル五輪から全ての夏季大会を現地から伝えてきた。大会の価値や、国際オリンピック委員会(IOC)の姿勢を、鋭い観察眼で切り取ってもらった。
(聞き手はスポーツ部・剣持雄治)

―多くの五輪を伝えてきました。

 「初めて行った夏が88年ソウル大会。まだセキュリティーが緩く、他国の選手とレース前に雑談することもできました。今は勝つことに全力を注ぐばかりで、選手同士の交流も少ない。ライバルに見られないよう練習も非公開が一般的。(近代五輪の創設者)クーベルタンが考えた五輪からはちょっと遠くなっている。だんだん窮屈になったと感じています」
 「実は日本勢の金メダルの瞬間の実況をしたことがないんです。銀メダルはしゃべっていて心苦しい時もあります。柔道なら負けを意味するという人もいるほどでしょ。どういう言葉を発すればいいか、苦しんだことも少なくありませんでした」

 ―64年の東京五輪を機にカラーテレビが世に出回りました。実況の仕方も変わりましたか。

 「カラー放送が始まっても受像機の普及は時間がかかりました。僕が駆け出しの頃は色を意識したアナウンスを指導されていましたね。今はカメラの台数が増えて映像がすぐに切り替わる。長い話はしづらいです。五輪でいい放送だったと思える大会はなかったなぁ。後悔の山です」

 ―五輪はなぜ特別なのでしょう。

 「スポーツが人の心を引き付けるのは、かけがえのない存在がプレーしているから。孫の運動会に行くおばあちゃんがそうでしょ。その規模がずっと膨らんで日の丸になり、五輪は国民の心を引き付ける。そう導くのがメディアや競技団体でもあります。日本がボイコットした80年モスクワ大会は視聴率が低かった。かけがえのない人が出ていないから当然でしょう」
 「銀メダルって価値があるんですけど、かけがえのない人への勝ってほしいという思いがかなわなかったとき、乾いた言葉をかけがちになってしまうのもまた五輪報道。16年リオデジャネイロ五輪で吉田沙保里が勝てなかった時、どう言えばいいか、放送で伝える側は口にすべき言葉が見つかりにくかったと思う」

 ―各競技の露出が増える今大会。マイナー競技がメジャーになりますか。

 「残念ながら難しいですね。84年のロサンゼルス大会以降、五輪は商業的要素が濃くなりました。普及や強化の観点で、マイナー競技団体が爆発的な人気を継続することは容易でないのです。中国からの留学生が言っていました。『卓球は世界一だが自分の周りではマイナーだ。中国では強くないけどメジャーなのは結局サッカーなんだ』と。中国は世界では勝てませんが、みんなが見ようとするからお金が入ってくるんです」

 ―時を経てサッカーは日本でもメジャーになりましたね。それに続く競技は。

 「メジャー競技の仲間入りなら、バスケットボールにチャンスがありそう。大胆な話、クオーター内の選手交代なし、なんてルールがあれば日本は勝てるチャンスが増えるかも。現状は大型選手のいる国が有利で、小柄なわれわれは引き立て役にしかなっていないのです」
 「大事なのは心理的にメジャーかどうかです。例えば、日本人が常に4強を張るような競技があったらどうでしょう。果たして誰もが『これはメジャーだ』と感じるでしょうか。結局、ライバルが必要なんです。それも手ごわいライバルが。相手がすごく一生懸命なのに、日本にはかなわない。そういう構図がうれしいんです」

 ―楽しみ方を教えてください。

 「現地で試合を見るなら特定の選手、プレーに着目するといいかもしれません。テレビでは一人に絞って放送することができませんから。例えば陸上投てきの選手が試技の前や後にいらいらする表情なんか、現場でないと目撃できないかもしれませんね。予習も大切。五輪ほどテレビや新聞に事前に情報があふれる大会はありません。予習すれば感動の度合いが違います」

 ―東京大会はスポーツクライミングなど新競技が行われます。

 「五輪が若い人を意識し始めた証拠です。昔は最低何カ国に競技団体がないと実施できないという条項がありましたが、今はない。若者を取り込もうとするあまり、IOCのブレーキが利いていないように見えます」

 ―野球も復活します。

 「米国では五輪はNBCテレビが膨大な放映権料を払って中継しますが、普段大リーグはあまり放送していません。相乗効果を期待しないから、スター選手を五輪に送り出そうとはしないという背景があります。日本の野球関係者がどんなに頑張ってもNBCは動かない。野球は日本で不動の人気ですが、五輪の世界ではまだマイナー競技です」


2020年01月20日月曜日


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