宮城のニュース

救急に心肺蘇生拒否するケース増 隊員、救命責務と板挟み

救急隊員とDNARへの対応を話し合う仙台市消防局の佐々木係長(左)

 119番で駆け付けた救急隊員が心肺停止の患者の蘇生処置を拒まれるケースが宮城県内で増えている。動転した家族が救急車を要請したものの、患者に心肺蘇生の不実施(DNAR)の意思があったことを思い出し、処置を望まないという。一刻を争う現場で、救急隊員は命を救う本来の責務と患者や家族の意思尊重の板挟みに悩む。(報道部・石川遥一朗)

■宮城で患者が不実施の意思

 県内のある消防本部の救急隊員は、約5年前の出来事を苦々しく振り返る。
 119番があり、救急車で向かったのは一般住宅。介護用ベッドの上で、高齢の男性があおむけになっていた。男性は心肺停止の状態。すぐに胸骨圧迫の心肺蘇生(心臓マッサージ)を始めたが、家族に「やめてください」と制止された。
 患者と家族、かかりつけ医師で話し合い「心肺停止時は延命処置をしない」と決めていたと告げられた。その場で医師に電話すると「心肺蘇生はしなくていい。これから向かうので、患者を搬送せず待っていてほしい」と指示された。
 消防法令は蘇生処置の実施を前提に救急業務を定める。DNARは責務に反する概念で受け入れ難い。「最低限の処置はします」と説明すると、医師はしぶしぶ承諾。救急隊員は医師が到着するまで人工呼吸と胸骨圧迫を続けた。男性はその後、亡くなった。
 「患者の『安らかな死』を邪魔してしまった心苦しさは今も残る」と救急隊員は打ち明ける。一方で「救命処置を拒むのなら、なぜ救急車を要請したのか。ふに落ちない思いが拭えない」と困惑を隠さない。
 河北新報社が県内11の消防機関に取材した結果、DNARに絡む事例は全機関にあった。仙台市消防局は2017年から統計を取り始め、17年は16件、18年は17件、19年は29件だった。
 市消防局の荒井勲救急課長は「約15年前は年間1、2件だったが、ここ数年で増加した。在宅のまま最期を迎えたい人は多くなりつつあり、今後も件数は増え続けるだろう」と話す。

■対応、統一基準なし 現場「早期に整備を」

 DNARへの対応を巡って総務省消防庁は統一基準を示しておらず、判断は各消防機関に委ねられている。宮城県内でもルールを明文化しているのは、11消防機関のうち仙台市消防局と塩釜地区消防事務組合のみ。救急隊員からは早期の法整備を望む声が上がる。
 仙台市消防局は2015年5月、救急隊員に蘇生処置の中止を条件付きで認める内部ルールを定めた。
 救急隊長は応急処置をしながら、家族とかかりつけ医師に「心肺蘇生、病院搬送が原則」と説明した上で、それでもDNARを望んだ場合は処置を中止する。家族と医師には「蘇生を希望しない」旨の書面に署名して提出してもらう。
 塩釜地区消防本部も家族がDNARを希望した場合、かかりつけ医師の指示を仰ぐようルール化している。他の消防本部はケースごとに判断しているが、原則は救命の責務に従い、心肺蘇生を実施し、病院搬送する場合が多いという。
 救急隊員からは「患者の尊厳に関わる問題であり、現場対応に地域差があるのはおかしい。救急隊員も戸惑うばかりで、国には早く統一基準を示してもらいたい」との声が上がる。
 DNARを希望しながら救急車を要請する「ミスマッチ」はなぜ起きるのか。
 仙台市消防局によると、(1)家族の気が動転してしまう(2)夜間などかかりつけ医師に連絡がつかない(3)救急隊は蘇生処置を原則中止できないと知らない−といったケースがあるという。
 市消防局救急ステーションの佐々木〓広救急指導係長は「人生の最期について話し合う習慣が大切だ。患者の意思を尊重するならば、いざというときの対応をあらかじめ確認しておいてほしい」と呼び掛ける。

[心肺蘇生の不実施(DNAR)]心肺停止状態の患者に蘇生処置をしないこと。あらかじめ患者や家族と話し合った医師が救急隊員に指示する。患者の尊厳を守るのが狙い。末期がんの場合など、蘇生処置をしても救命の可能性が極めて低い患者に限られる。

〓は隆の生の上に一


関連ページ: 宮城 社会

2020年01月27日月曜日


先頭に戻る