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原発被災地「内なるギャップ」 進まぬ帰還、遠のく目標

居住人口が原発事故前の6分の1にとどまる福島県富岡町。避難自治体の人口減少が加速している

 「東京五輪に向けて復興を世界にアピール」。東京電力福島第1原発事故から間もなく9年。政府は被災地復興に関する文書や資料にしばしば、一大行事にふさわしい「理想」の姿を書き込む。だが避難指示が出た福島県内12市町村は人口が急速に減少し、自治体同士の復興格差も広がるという悲しい「現実」が顕著になりつつある。原発事故被災地のギャップに目を向けた。
(福島総局・関川洋平)

 富岡町の美容師猪狩由美子さん(59)が苦笑いする。「もう少し稼げるかなと思ったのに…」。2018年5月に町役場近くで店舗を再開し、間もなく2年。住民が激減した古里の現状に直面している。

 客数は原発事故前の3分の1。大半が再開後に付いた新規客だ。避難先の郡山やいわきから通うなじみもいるが、町内に自宅を残しているのは2人だけ。ほとんどは、このまま戻らないという。
 避難12市町村の住民帰還が進んでいない。県のまとめでは、旧避難指示区域に住民票がある4万6607人のうち20年1月までに帰還するなどしたのは1万3165人。居住率は28.2%にとどまる。
 富岡町は16年3月策定の帰町計画で、19年度末の居住人口目標を3000〜5000人と設定した。しかし17年4月の避難指示一部解除後、戻るなどしたのは1187人(居住率13.0%)。一時的に町内に住む廃炉作業員らを加えても2500人前後とみられる。
 町企画課は「目標を下回ったという評価を下さざるを得ない。ただ、町民に戻ってほしいと思う半面、戻りさえすれば復興したとも言えず、悩みが深まっているのが実態だ」と語る。
 避難者の帰還意欲は年々減退する一方だ。復興庁などが避難世帯に19年度実施した意向調査では、双葉町で63.8%、富岡町で49.0%が「戻らない」と回答。双葉町の65.2%、富岡町の62.8%が避難先で持ち家を保有していた。

 政府は19年12月に閣議決定した復興・創生期間後の21年度以降の復興に関する基本方針で「帰還促進のみでは復興・再生を実現することは困難」と宣言。移住や交流人口の拡大を復興のもう一つの柱に据えた。
 復興庁が18年度に実施したアンケートでは、首都圏などの住民の4割が12市町村への移住に「興味あり」と答えた。だが、富岡町が19年度に提供を始めた移住者専用の借り上げ団地は24部屋中18部屋が空室。移住者の誘致は全国との競争で、抜け出すのは容易ではない。
 避難指示区域の縮小や外国人旅行者の増加が被災地の「光」だとすれば、12市町村の人口が県平均の2倍近いペースで減っている現実は「影」と言える。ある自治体で住民帰還に携わった職員は「事故前に戻ることはないにせよ、人口こそ復興のバロメーターだ」と言い切る。
 国の復興推進委員を務める白波瀬佐和子東大大学院教授(人口社会学)は「まず自治体があり、そこの人が減るという発想から、まず人がいて、それを自治体が助けるという発想に転換する必要がある。少人数でも住民に寄り添って復興を進めるためには、地域を知る自治体が自ら方策を考えるべきだ」と強調する。


2020年03月01日日曜日


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