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原発被災地「広がる格差」 事業の地元再開に遅れ

9年ぶりの畑作業を見守る佐々木さん(左)=2月中旬、福島県浪江町

 「東京五輪に向けて復興を世界にアピール」。東京電力福島第1原発事故から間もなく9年。政府は被災地復興に関する文書や資料にしばしば、一大行事にふさわしい「理想」の姿を書き込む。だが避難指示が出た福島県内12市町村は人口が急速に減少し、自治体同士の復興格差も広がるという悲しい「現実」が顕著になりつつある。原発事故被災地のギャップに目を向けた。
(福島総局・関川洋平)

 農地の除染に7年。草刈りや石拾い、土作りを経て0.4ヘクタールの畑にタマネギの苗を植えられるまで、さらに2年かかった。福島県浪江町の藤橋地区で管理耕作組合に加わる佐々木茂夫さん(67)は「農村の再開に向け、やっとスタート地点に立てた」と強調する。

 東京電力福島第1原発事故に伴い避難した県内12市町村の復興状況に違いが目立ちつつある。中でも第1原発周辺の富岡、大熊、双葉、浪江4町は、先に避難解除された自治体との格差が広がる。
 避難指示はまず、2014年までに広野町と田村市の全域と川内村の一部で解除された。17年までに楢葉町、川内村、川俣町の全域と葛尾、南相馬、浪江、飯舘、富岡5市町村の一部に拡大し、19年4月に大熊町の一部、今月4日には双葉町の一部が解除となる。
 営農再開の割合は、18年度末現在で富岡町が1.3%、浪江町は0.8%にとどまる。避難指示解除前の大熊、双葉両町はもちろん0%。一方で最も高い広野町では77.7%、川内村も60.7%に達する。
 再開が遅れると、制度面でも一部不利になる。国は19年度、農地集約に取り組む地域に交付する地域集積協力金で県内被災地への上乗せ分を、10アール当たり最大2万2000円から同3000円に引き下げた。
 農業に限らず、4町ではあらゆる産業の事業再開に時間がかかり、再開したとしても地元以外の可能性が大きい。
 被災事業者を支援する官民合同チームによると、4町では事業者の約半数が休業中。避難先などでの再開・継続を希望する割合は事業者全体の31.9〜24.9%と、12市町村平均(18.8%)を上回る。

 補助金の採択状況にも事業者の流出傾向がうかがえる。19年度までに県の事業再開等支援補助金を受けた事業者数は被災地別では双葉町22、大熊町19。ところが再開地別に見ると双葉町4、大熊町0になる。
 復興状況の格差は12市町村全体が対象の支援制度の縮小につながりかねず、先行する自治体にとっても人ごとではない。田村、南相馬、広野、川内4市町村は19年11月、支援制度の継続を求める要望書を福島復興局に共同提出した。
 復興・創生期間後の21年度以降の支援を巡る県の基本姿勢は「12市町村に差はつけられない」(経営金融課)。他方、復興格差を縮めるために「何らかの重点化をしなければならないのでは」(官民合同チーム関係者)との声もある。
 4町を含む双葉郡は合併論議がくすぶる。12市町村の将来像に関する国の有識者検討会の座長を務める大西隆・豊橋技術科学大学長は「本格的な復興のステージに入れていない自治体もある中で、合併をせかすのは酷だ」と警告する。


2020年03月02日月曜日


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