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手話通訳、東北の知事会見で導入広がる 人材少なく全面対応は困難、多様な支援急務

手話通訳が導入された達増知事の定例記者会見=4月23日、岩手県庁
岩手県の担当者と面会し、手話で聴覚障害者への配慮を求める高橋さん(右)と斎藤さん

 新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、東北各県知事の記者会見で手話通訳の導入が進みつつある。自治体トップの幅広い情報発信が求められるためだが、手話通訳士は少なく全面導入は難しいのが実情。通訳士育成や字幕付き映像の配信など、聴覚障害者向けの多様な支援が急務となっている。

 岩手県は4月23日の定例記者会見から手話通訳を取り入れた。手話通訳士2人が交代で達増拓也知事のそばに立ち、約1時間半に及んだ会見を同時通訳した。
 達増知事は「コロナ対策で県が発信する情報の重要性が増しているし、マスクを着けると唇の動きや表情を見ることが難しい」と導入の理由を説明した。
 記者会見に対応できる技術を持つ手話通訳士は県内に4人ほどしかいない。定例会見や今後、万が一に県内で新型コロナ感染が確認された場合などに行う会見には配置する予定だが、その他は未定だ。
 障がい保健福祉課の担当者は「限られた人数なので必ず対応するのは難しい。緊急の場合にはその都度検討する」と話す。
 宮城県は4月3日に行った村井嘉浩知事と郡和子仙台市長の共同記者会見など、新型コロナ関連で数回配置した。手話通訳士から「聴覚障害者がコロナの情報を知りたがっている」との申し出を受けて実現した。
 ただ定例記者会見に導入するめどは立たない。広報課の担当者は「原則毎週ある定例会見に対応できる手話通訳士は県内にほとんどいない。本業が別にあり、日程調整は難しい」と説明。来年度以降の導入を目指し、育成を進める。
 秋田県は4月21日の知事定例会見で初配置した。緊急会見を除き継続する方針。終息後の対応は検討中という。青森県は同22日に開いたコロナ対策本部会議と三村申吾知事が県民向けメッセージを発信した際に手話通訳士が同席した。
 山形、福島両県は新型コロナが拡大する以前から対応済みだ。山形は定例、臨時の全てに通訳士が同席する。福島はホームページ上で後日公開する会見動画に手話通訳を付けている。
 仙台市障害者福祉協会会長を務める阿部一彦東北福祉大教授(障害福祉学)は「知事の会見に手話通訳を付けるのは非常に意義深い」と評価。「手話ができない中途失聴者は多く、字幕などの手段も講じてほしい」と支援拡大を期待する。

◎聴覚障害者、受診に壁 マスク着用で相手の唇読めず

 新型コロナウイルスの感染拡大が、岩手県内の聴覚障害者の生活に深刻な影響を及ぼしている。マスク装着で唇の動きが読めず、意思疎通が困難になっている。感染が疑われる症状が出ても「筆談ではうまく伝わらない」と受診をためらう人が出かねない状況だ。
 「私たちはこれまでも我慢してきた。いま、命が最優先のはずなのに現状は何も変わっていない」
 県聴覚障害者協会の高橋幸子副会長と斎藤智子事務局長が4月22日、県庁を訪れ、手話で窮状を訴えた。
 新型コロナ感染の疑いで医療機関を受診する際の手話通訳体制の確立を要望。だが、障がい保健福祉課の回答は「感染の疑いがある人に手話通訳士が同行するのは、リスク管理の面から難しい」と消極的だった。
 2人は「限られた診療時間で筆談では聞きたいことが聞けない」「健常者と同じように安心して受診できるようにしてほしい」と強調。テレビ電話を介して手話通訳する遠隔サービスの早期導入を求めた。
 県内の聴覚障害者は2019年3月末時点で4206人。協会によると、新型コロナ感染拡大で寄せられる相談が増えた。交流の場となる手話サークルなども活動休止を余儀なくされ「情報過疎」に陥っている。
 斎藤さんは「相手がマスクをしていると、しゃべっているかどうかすら分からない。聴覚障害は見た目で全く分からず、理解されにくい」と嘆いた。


2020年05月11日月曜日


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