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仙台・天江富弥創業「炉ばた」70年の歴史6月で幕 コロナ禍で客足戻らず

年代物のいろりの前に座り、木のへらで酒を差し出す和子さん

 東北内外の文化人が集い、名物酒場として長い歴史を持つ仙台市青葉区国分町の「郷土酒亭 元祖炉ばた」が、6月末で閉店する。戦前から地場文化の発展に尽力した天江富弥(1899〜1984年)が1950年に開き、元の従業員夫妻がその心と味を守り伝えてきた。新型コロナウイルスの感染拡大で客足が途絶え、創業70年ののれんを下ろすことに決めた。
 店主がいろりの前に座り、とっくりを長い木のへらに載せて炉端の客に差し出す独特のスタイル。「おんちゃん」と慕われた趣味人の天江が、開店した際に取り入れた。各地に広まった炉端形式の発祥とされる。
 現在の店は、かつて支店を任されていた加藤潔さん(77)、和子さん(71)夫妻が92年、ビルの1階に移転して始めた。仙台弁と山海の季節の味覚でもてなし、宮城県内外の常連客のほか、出張や観光で訪れた人にも支持された。
 3月以降、感染者の増加が各地で報告され出すと来店者は激減。大型連休中の休業を経て5月7日に再開したが、客足は戻らない。夫妻は「年も年だし、この際だから」と決断した。
 「誰にでもおんなじように接するおんちゃんの教えを守りながら、あっという間の50年。昔のお客さんの孫も飲みに来てくれていました」と和子さん。
 天江は仙台にあった蔵元「天賞酒造」の三男で、大正期に詩人スズキヘキらと日本最初の童謡専門誌「おてんとさん」を創刊、児童文化運動を主導した。人脈が広く、店には岡本太郎さん、永六輔さん、仲代達也さんら多くの著名人が訪れ、天江の地元仲間と親交を深めた。
 潔さんは「いろんな先生方とお話しできた。正月や七夕の行事も楽しかったね」と振り返る。
 約70平方メートルの店内には、いろりを囲む17席と小上がりがある。素朴な民具がさりげなく飾られた古民家風のしつらえで、クリ材のいろりや自在かぎは天江の形見。夫妻は居抜きでの引き受け手を探している。
 仙台市出身で学生時代から40年近く通う加藤理・文教大教授(59)=児童文化史、東京都=は「店の空間そのものが文化財」と強調する。「天江さんが大切にした東北の生活文化の粋が詰まっている。なくしてしまうのは惜しい。残す方法が見つかればいい」と願う。


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2020年05月31日日曜日


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