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感染症と繰り返される差別 コロナ禍に考える

こはま・こうじ 市民団体「東北HIVコミュニケーションズ」(仙台市)でHIVの電話相談や支援、感染予防などの啓発に取り組み、03年から現職。市民団体「レインボー・アドボケイツ東北」(同)の代表として、性的少数者に関する政策提言や多様な性の在り方を考える活動にも力を入れる。大阪府生まれ。57歳。
くろさか・あい 埼玉大大学院博士後期課程修了。日本学術振興会特別研究員などを経て、2014年4月から現職。家族訴訟では専門家証人として差別の実態を述べた。著書に「ハンセン病家族たちの物語」など。専門は社会学。埼玉県生まれ。42歳。

 新型コロナウイルスの感染者や家族、クラスター(感染者集団)が発生した職場や施設が、中傷や嫌がらせ行為を受けている。私たちの社会はなぜ、差別を繰り返すのか。コロナ禍が浮き彫りにした課題に、どう向き合うべきか。エイズウイルス(HIV)とハンセン病。二つの感染症問題に取り組む2人と考える。
(聞き手は生活文化部・片山佐和子)

■HIV 「東北HIVコミュニケーションズ」代表・小浜耕治さん

 −HIVに関する相談や支援をする立場から、新型コロナ感染者に対する差別的な言動をどう見るか。

 「1980年代に起きたエイズパニックでは、死亡した患者の実名やデマが出回るなど報道も過熱した。正しい知識がないまま、感染症に漠然とした恐怖を抱くと差別が生まれる」
 「クラスターの中で最初に感染が判明した人は感染源になったと誤解され、攻撃された。営業を続けた店などを過剰に批判する『自粛警察』も、正義感が暴走したと感じた」

 −89年施行のエイズ予防法も当時、問題になった。

 「医師に『感染拡大させる恐れのあるもの』の情報を報告させるなど、患者の人権を傷つけた。社会防衛的な発想は差別や偏見を助長する。同法は廃止され、患者の人権尊重と適切な医療提供をうたう感染症法(99年施行)に統合された」
 「感染症対策は予防と人権擁護のバランスが難しい。批判的な空気の中で自分の情報の扱われ方が分からなければ、行動歴を明かさない人が出るし、検査拒否も起こるだろう。市民の協力や信頼関係が不可欠だ」

 −コロナに関する報道の在り方をどう思うか。

 「感染者の発生を大きく取り上げ、『感染することは過失だ』と強く印象付けた。特にテレビのワイドショーは臆測が多く、制作者や出演者の正しい理解が欠けていると感じた」

 −韓国ではゲイクラブでクラスターが発生し、同性愛者へのバッシングが過熱した。

 「インターネットで店の利用者を特定し、本人の同意なしに性的指向などを暴露する事態も起きた。日本でも当事者や支援団体が危機感を募らせ、国とウェブメディアの事業者で作る団体に、プライバシーへの配慮と正確な情報に基づく冷静な報道を求めた」

 −HIV陽性者が就職内定を取り消されたり、歯科診療を拒否されたりするなど、社会には今も差別的な視線が残る。コロナ下で活動する中で懸念はあるか。

 「陽性者や性的少数者の中には周囲に明かせず、プライバシーが守られる匿名の空間でしか自分らしく過ごせない人がいる。公的施設などの利用時に、行政が参加者の情報を把握するよう求める動きがあるが『非常時だから仕方ない』では済ませられない」
 「半面、感染者が出た場合を考えると悩ましい。さまざまな立場で関わる人たちが信頼関係を丁寧に築き、どうするべきか考えることが大切なのだろう」

 −HIVの活動を踏まえ、コロナ対策で今、何が求められていると思うか。

 「市民が主体的に行動できる態勢をつくることだ。『感染したかもしれない』と考える人は不安や自責の念を持つため、HIV対策は夜間休日に対応するなど検査の敷居を低くし、医療につながりやすくした。私たち市民団体も情報提供や啓発を続けた。コロナ対策も、安心して検査や医療を受けられる環境をつくるなど、前向きな行動を促す情報を提供するべきだ」

[メモ]かつてエイズは死に至る病とされたが、医療が進歩し、早期発見や治療でHIVに感染してもほぼ予防できるようになった。18年の新たなHIV感染者は940人、エイズ患者は377人で横ばい状態が続く。保健所の検査は無料、匿名で受けられる。


■ハンセン病 東北学院大准教授・黒坂愛衣さん

 −ハンセン病元患者の家族に2004年から聞き取り調査し、差別を掘り起こした。家族への被害を認め、国に損害賠償を命じた熊本地裁判決にもつながった。新型コロナウイルスを巡る問題をどう受け止めたか。

 「昨年、国が控訴を断念して、当事者も支援者も差別解消の一歩をやっと踏み出せると感じていた。だが新たな感染症が登場し、再び感染者や家族らの人権が簡単に踏みにじられた。差別の深刻さと過ちを伝えた判決の教訓が生かされず、失望した」
 「コロナ禍では最初に中国人が感染源として中傷され、排外主義が表出した。感染症を理由に、心の奥にあった差別感を正当化する人々がいた。目に見えない恐怖を遠ざけたい思いが、排斥対象を探すのだろう。原発事故の避難先で福島の人々が受けた差別も思い起こした」

 −政府のコロナ対応をどう評価するか。

 「休業補償や現金一律給付への消極的姿勢に加え、感染を調べるPCR検査もすぐには受けられず、社会不安を助長した。国民は自衛を迫られ、感染者を遠ざける動きにつながった」
 「希望もある。会員制交流サイト(SNS)で『このままなら生活できない』という声が可視化され、現金の一律給付などを後押しした。差別への批判もあった。さらに声を大きく、強くしないといけない」

 −ハンセン病では官民一体で患者を捜し出す「無らい県運動」が展開された。

 「01年の熊本地裁判決を受け、国は強制隔離政策の責任を認めたが、患者を地域社会から追いやった市民の責任も大きい。国家権力を背景に、住民が元患者を排除した。『療養所だけが安心して暮らせる場所だった』と語る元患者は多い」

 −ハンセン病に関し、どんな取り組みを進めるか。

 「迫害された当事者の思いを聞くことを大切にしたい。宮城県でも家族訴訟の男性原告が社会に発信したい思いを持ち、学生や市民に経験を話してくれている。心強い存在だ」
 「過ちを正すのが大変遅くなったが、元患者と家族の関係が少しでも修復されるよう、『(病を)隠さなくても暮らせる社会』にしなくてはならない。ほかの感染症でも本人や家族が責められない環境づくりにつながるのではないか」

 −感染症に対する差別の克服に大切なことは。

 「教育や啓発だ。家族訴訟を通し、ハンセン病の教育啓発の不十分さが明らかになった。政府は中学校で冊子を配布するだけで、教育に生かされていない」
 「大学の講義でハンセン病を取り上げると、学生は『昔のこと』と捉えがちで、リアリティーを持って伝えるのに苦心した。だが、コロナ禍で社会は感染者への差別を再び経験した。ハンセン病の歴史をあらためて学び、今後に生かすべきだ」

[メモ]ハンセン病は感染力が弱く治療で完治するが、国は1996年のらい予防法廃止まで隔離政策を取った。2001年の熊本地裁判決を受け、国は元患者に謝罪と補償をした。家族訴訟では19年の同地裁判決で国の責任が認められた。同年11月、家族の名誉回復を図る改正ハンセン病問題基本法と家族補償法が施行された。


関連ページ: 宮城 社会 新型コロナ

2020年07月15日水曜日


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