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台風10号豪雨あすで4年、再生へ一歩ずつ 岩手・岩泉の老舗旅館「町を元気に」食文化伝承

4年前の多くの支援に感謝する辺見さん(左)と茂木さん

 岩手県内に深い爪痕を残した2016年の台風10号豪雨から30日で4年となる。浸水被害を受けた岩泉町の老舗旅館は廃業の危機を乗り越え、再生へ歩みを進めている。宿泊施設としてはもちろん、岩泉に息づく豊かな食文化の伝承にも力を入れていく。
(宮古支局・佐々木貴)

 かつての宿場町、門町にある瀬戸屋旅館は創業140年になる。4代目のおかみ辺見むつ子さん(71)は豪雨の衝撃が忘れられない。
 夕方になって近くの川が氾濫。旅館前の道路は冠水し、土のうを積んだ1階に泥水が流れ込んできた。畳が浮き始め、宿泊客3人を2階に誘導した。
 停電の夜。風雨で「ゴーッ」と山が鳴り、一睡もできなかった。食器やテーブルも壊れ、布団は泥にまみれた。「これでやめなさいっていうことかな」。廃業を覚悟した。
 半年以上続いた復旧作業には連日、ボランティアが駆け付けた。旧知の顔も、初対面の顔もあった。「懸命に泥をかき出し、重い荷物を運んでくれた。一番の恩返しは旅館の再建」。17年7月、本格営業にこぎ着けた。
 辺見さんは郷土料理の継承を通して地産地消を実践する県の「食の匠」に認定されている。東日本大震災後は手料理で被災者や復興事業に関わる宿泊客をもてなした。自身が台風で被災し、「多くの人の支援で気持ちが前を向いた」と感謝の念を抱く。
 旅館の泥出しに通った一人が茂木素子さん(44)。「再開してと言えない状況だったが、再開時には力になりたかった」。切り盛りを手伝って3年になる。
 栃木県出身で、結婚を機に18年前から岩泉で暮らす。今では四季の豊かな食材に魅了されている。保存、加工技術の先生が辺見さんだ。
 岩泉では古くからドングリが食されていた。茂木さんは18年、伝承プロジェクトとして「どんぐり学園」を結成した。辺見さんもメンバーに加わり、児童とドングリを拾い、乾燥やあく抜きの手順も教える。
 新型コロナウイルスが経営を直撃し、伝承活動も限られる。それでも町を元気にするため、旅館を食文化の体験施設にしていきたいという共通の思いは変わらない。
 「長くて短い4年だった。あのままやめていたらどうなっていたか。失ったものを数えるより、地域のいいものを拾いたい」。辺見さんの語り口に実感がこもる。


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2020年08月29日土曜日


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