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空駆ける石巻の町工場(4) ゼロから技術磨き道開く

研磨前のコバリオン製人工膝関節
研磨後

 役員・従業員45人の小さな会社ながら、航空機部品の研磨を主力事業に成長させた石巻市のエヌエス機器。バブル崩壊、東日本大震災、新型コロナウイルス禍と難局が続く中、技術を文字通り磨いてきた町工場の航跡をたどる。
(報道部・高橋一樹)

 2000年ごろ、デジタルカメラの部品研磨を初めて受注したエヌエス機器(石巻市)。「磨き」は組み立てとは全く異なる作業だ。阿部秀敏社長(61)は再起の糸口をつかもうと必死だった。
 「研磨の工場を見せていただけませんか」
 阿部社長は発注元、エーケーダイカスト工業所(東京)の甲斐宏社長(73)に頼み込んだ。めったに着ない背広に身を包み、工程確認にひっそり同行した。
 これが仕上げ工程、あれが研磨剤−。作業風景を脳裏に焼き付ける。技術的な工夫は何も分からなかったが、最初に機械を購入し、社員と2人で見よう見まねで研磨加工を始めた。
 金属部品を金型加工で作ると、必ず「バリ」が出る。研磨事業は技術さえあれば、一定の需要を見込める仕事ではあった。大きな壁になったのは家内工業との競争だ。
 金属研磨事業は家族経営が多かった。積み重ねた技術があるのに加え、彼らは労働時間が無制限。「残業代もパート代も普通にかかる当社がコスト競争で勝つのは大変だった」(阿部社長)。自動車のハーネスとは異なり、外注するのも難しかった。
 それでも少しずつ受注をこなす。表面が鏡のようになるまで磨き上げる「鏡面仕上げ」を自分たちのものにしていった。大型オートバイ、ハーレーダビッドソンに使われるブレーキレバーの研磨を請け負ったこともあった。
 エーケー社の甲斐社長は「研磨も外観検査も、何でも一生懸命やってくれる馬力のある会社。私たちの発注はそこまで難しい作業ではなかったので、自分たちでこつこつ技術を磨いたのだろう」と話す。
 2010年。磨きの事業に転機が訪れる。
 仙台市産業振興事業団から一風変わった依頼が舞い込んだ。「3Dプリンターで試作した人工膝関節を磨いてほしい」。材質は東北大などが開発した合金「コバリオン」。金属アレルギーを起こしにくい画期的な新素材だが、摩耗を防ぐためには高い精度の研磨が必要だ。
 扱ったことのない金属。しかも、医療機器での要求水準は「面粗度20ナノメートル」、すなわち凹凸が10万分の2ミリ以下になるまで磨くこと。ピカピカにすればよい研磨とは訳が違う。
 工場で磨いては、仙台市の宮城県産業技術総合センターに何度も通い、測定機で精度を確かめる。
 最終的には要求を超える面粗度10ナノメートルを達成した。その時、コバリオンの開発を手掛けた教授が告げた。
 「実は他にも2社に発注したのですが、クリアできたのは御社だけでした」
 断トツの存在になれば道は開ける−。阿部社長は確信する。


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2020年09月17日木曜日


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