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特殊詐欺被害の80代女性、全500万円取り戻す 裁判2度、気仙沼の弁護士奔走

分厚い資料で裁判を振り返る東弁護士

 特殊詐欺で現金500万円をだまし取られた宮城県気仙沼市の80代女性が先月、8年越しで全額を手元に取り戻した。一度は泣き寝入りしかけたが、代理人の弁護士が奔走し、2度の裁判で回収に成功。女性や家族は安堵(あんど)の表情を見せている。
 女性は2013年6月、「株式を購入してほしい」などと電話でだまされ、東京の会社に書類を送付。その後「書類に不備があり損害が出た」と500万円を要求され、現金を「ゆうパック」で郵送した。
 女性の息子が詐欺に気付き、警察に相談。さらに500万円を詐取しようと女性方を訪れた男性Aを、気仙沼署が任意聴取した。逮捕には至らず、その後の捜査でも摘発されなかった。
 女性と家族は、同市の東忠宏弁護士(42)に相談した。会社の登記から、Aが会社代表と特定した。お金をだまし取った民法上の不法行為や、責任者としての会社法違反による損害賠償を求め13年11月、Aを相手に仙台地裁に提訴した。
 Aは出廷せず、14年1月に勝訴が確定した。しかし東京地裁に会社への動産執行を申し立てるも、営業実態がなく空振りに終わった。Aの肩書は形式的で、実際は組織の末端のようだった。不動産や銀行口座など他の財産も見つけられず、14年7月に回収を断念した。
 東弁護士は諦め切れず、15年5月にAの身辺を再調査した。以前はAの親名義だった関東地方の自宅が、Aへの相続を経ず別の男性B名義に変わったことに気付く。「財産隠しだ」と直感した。
 15年10月、今度は詐害行為の取り消しを求めBを提訴。一審で敗れるも二審で逆転、最高裁で19年6月に勝訴が確定した。Aの財産となった自宅を強制競売に掛けて20年8月、遅延損害金約150万円を含めて被害額を全て回収した。
 女性はだまされた当時を「何も手に付かず、生きる気をなくした」と振り返る。満額が戻り「家族に申し訳なかったのでほっとした」としつつ、「だまされないことが一番」と述べた。
 東弁護士は「手を変え品を変え繰り返される特殊詐欺に、一矢報いた。今後も粘り強く取り組みたい」と話している。

◎回収のハードル高く、満額戻るのはまれ

 特殊詐欺で奪われた多額の現金が、被害者の手元に戻るケースは少ない。
 詐欺犯に刑事罰が科されても、弁済させるには民事訴訟で争う必要がある。銀行口座や不動産など、詐欺犯の財産の有無は原則的に被害側が調べなければならない。
 そもそも現金を受け取る「受け子」など、犯罪の前面に立つのは詐欺グループの末端で、弁済に十分な財産がない場合も多い。宮城県警のある幹部は「満額取り戻せるのは1割未満ではないか」と推察する。詐欺犯が摘発されなければ回収はさらに難しくなる。
 昨年5月、民事執行法が改正された。裁判所が申し立てに応じ、預貯金や勤務先を公的機関に照会する制度が盛り込まれたが、それでも回収までのハードルは低くない。
 高額の被害で気持ちがふさぎ、家族との関係が悪化する人も多い。日弁連で消費者問題対策委員会副委員長を務めた経験のある仙台弁護士会の千葉晃平弁護士(49)は「詐欺の首謀者に弁済させるのが筋だが、容易ではない。詐欺に関与した人間に少しでも弁済を求めていく」と話している。


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2020年09月25日金曜日


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