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「あの日から」第5部 命を救う(3) 備える大切さ海超える

「佐藤山」で見学者に避難の大切さを伝える佐藤さん(右)=10月26日

 大洪水から家族や動物を救った旧約聖書の「ノアの箱舟」。安政南海地震(1854年)があった和歌山県で、村人を津波から避難させた「稲むらの火」。東日本大震災で70人以上が避難して助かった宮城県東松島市野蒜の佐藤山のエピソードは、神話や昔話に似ていると評判になった。
 「災害はいつ来るか分からない。住んでいる場所の安全について十分に考えてほしい」
 佐藤山を所有する佐藤善文さん(86)=東松島市野蒜ケ丘=が10月下旬、大崎市の公民館職員らに備えの大切さを訴えた。
 仲介した野蒜まちづくり協議会の山縣嘉恵さん(52)は佐藤山の話に感銘を受け、「敬意を込めて『おさとうやま』と呼んでいます」と話す。これまで10回以上、防災に関心がある人たちを佐藤山に案内してきたという。
 「なんじゅうにんものむらびとたちが さとうのやまににげて たすかったのだ」
 京都市の京都うずら野ライオンズクラブの藤枝雅博さんも佐藤山の話に心を打たれた一人。2014年に佐藤山を題材にした絵本「おさとうやま」を出版した。主人公「さとう」が石を積み上げて山を造り、津波から村人を救うストーリーだ。
 藤枝さんは「佐藤さんの思いが全世界に広がるようお手伝いしたい」と、友人らの協力で英語、ベトナム語、インドネシア語、ロシア語、ウクライナ語の5カ国語に翻訳した。
 これまで販売・配布した数は4000冊を超え、小さな子どもたち向けには紙芝居も作った。
 京都市の椥辻(なぎつじ)こども園は今年2月、避難訓練の際に紙芝居の「おさとうやま」を子どもたちに読み聞かせた。事務長の上塚麻理恵さん(42)は「震災や津波とはどういうものなのか伝えたい」と来年以降も続けるつもりだ。
 昨年5月には、米国の大学の教授が佐藤山を訪問。政府や大きな支援団体に頼らず住民自ら大災害に備え、命を守った事例の一つとして、絵本を使い、佐藤山のエピソードを授業で紹介した。
 海を超えて感動を呼ぶ佐藤山には、今も国内外から多数の見学者が訪れる。
 市は震災後、佐藤山周辺の市指定避難所を高台にある野蒜市民センターや宮野森小に決めた。いずれも海岸から1キロ以上離れ、徒歩で15分以上かかる。
 佐藤山は指定はされなかったが、佐藤さんは今も「海岸近くの高台により安全な避難所があればいい」との思いを抱いている。
 「震災より大きな津波が来ないという保証はない。誰もがいつでも逃げて来られるようにしておかないとね」
 「野蒜のノア」は、今日も佐藤山の山守を続けている。
(横川琴実)


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2020年11月13日金曜日


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