宮城のニュース

「復興再考」第5部 村井県政(3) 医学部新設/医師定着へ連携不可欠

基礎生物学実習に取り組む医学部1年生=仙台市青葉区の東北医科薬科大小松島キャンパス(同大提供、写真を一部加工しています)

 「東北の復興の一翼を担いたい」。入学式で誓った医師の卵は5年生になり、来年度には卒業を迎える。
 2016年、国内で37年ぶりに医学部が設置された東北医科薬科大(仙台市)。高柳元明理事長(72)は「医師が一人前になるまで卒業後10年は必要。東北に残り地域に貢献してくれるのか。評価にはあと10年かかるだろう」と話す。
 医学部生約500人のうち宮城県出身は約15%、東北6県は約30%。「一般的に地元出身者の定着率が高い。ただ、首都圏と学力差がある」と高柳理事長。地元出身者の割合を高める方策は一朝一夕には見つかりそうにない。
 「県内に医学部を新設する目的は達成できた」
 医学部設置が同大に決まった2014年8月、村井嘉浩宮城県知事(60)は翌日の記者会見で強調した。重い扉をこじ開けた喜びよりも、徒労感を漂わせていたのには訳があった。
 「地域医療に特化した医学部が必要です」。東日本大震災で懸念された医師不足の加速に歯止めをかけるべく、村井知事は安倍晋三首相(当時)に直談判。復興支援の特例で13年11月、東北に1校に限り医学部の新設が認められた。
 県立大を抱えるものの、医学部の運営主体となる腹積もりはなかった県だが、応募の締め切り直前、新設を目指す財団法人に協力を要請されて急転換。栗原市にキャンパスを整備する案を引き継ぎ「宮城大医学部」構想を打ち出した。
 「東北版・自治医科大」を掲げ、村井知事は短期間の力業でプランを練り上げたが、具体的な教育プログラムを提示した当時の東北薬科大に軍配が上がった。
 地域医療の前線に立つ医師を養成する東北医科薬科大で、地元定着を促す最大の特色は、国公立大並みの学費で学べる手厚い奨学金制度だ。
 県内の医療機関に10年間勤務すれば、返還が免除される「宮城枠」は1学年30人。1人3000万円を在学中に貸与する原資に、県はクウェート政府の支援を基に90億円を捻出した。
 制度は半面、卒業後の就職先を縛ることになる。NPO法人医療ガバナンス研究所(東京)の上昌広理事長(52)は「学生が『学びたい』と思えるキャリアパス(将来の人事展望)を作ることが先決だ」とくぎを刺す。
 同大には東北6県に19のネットワーク病院があり、滞在型の体験学習を実践する。高柳理事長は「若者は大災害や新型コロナウイルス禍を間近で見ている。震災後、人の役に立ちたい、地域に貢献したいという意欲が高まっている」と地元定着に期待を寄せる。
 県内医療圏別の10万人当たり医師数(18年末時点)は仙南161.8人、大崎・栗原173.6人、石巻・登米・気仙沼163.0人。仙台(293.1人)を除き、全国(258.8人)を依然大きく下回る。
 医師不足の現状をかつて「真っ暗なトンネル」に例えた村井知事。「いずれ医師が次々と輩出され、だんだん明かりが見えてくる。(東北大医学部もあり)他県に比べ恵まれた環境を成果につなげたい」と意欲を示してきた。
 村井知事が描いたシナリオ通りではなかったものの、県と大学の連携強化は不可欠だ。新設医学部の船出と航海は、創造的復興の中で最も息の長い取り組みが求められる。


関連ページ: 宮城 社会 復興再考

2020年11月14日土曜日


先頭に戻る