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【解説】県美術館移転構想 効率を重視、文化的価値への配慮欠く

 各方面に波紋を広げた宮城県美術館の移転論議は、県の全面撤回で一応の決着を見た。集客効果や経済合理性から実現に意欲を燃やした村井嘉浩知事にとって、建物の文化的価値を理由に批判が殺到したことは想定外と言っていい。
 方針表明はちょうど1年前にさかのぼる。東京エレクトロンホール宮城とセットで、仙台駅東口から徒歩圏の好立地に移転集約するプラン。村井知事は「東北の文化拠点になる」と胸を張って宣言した。
 移転論を支えたのは、国の起債制度。条件が整えば数十億円規模の事業費を節約できる上に、最新鋭の芸術施設を建設できる。村井知事も周囲に「誰もが納得する。みんなが喜ぶ事業だ」と自信を見せていた。
 だが直後から現美術館の建築的価値を重んじる市民団体から反対が相次ぎ、県議会でも与野党を問わず疑問が投げ掛けられた。2018年3月時点で現地での増築改修案を県教委が策定した経緯も「場当たり的な施策」の印象を深めた。
 県は近年、仙台空港民営化や水道3事業の民間委託などを次々と打ち出している。庁内が効率重視の雰囲気に覆われる中、歴史的な背景や意義に対する配慮、多様性の尊重が欠落しているのではないか。
 一連の議論を通じ、県と芸術関係者との間に生じた溝は深いが、立ち止まった知事の決断に理解を示す人もいるはずだ。今回の結論を「勝ち負け」で終わらせず、互いに歩み寄り、文化行政をより良い姿に磨いていく姿勢こそが求められる。
(報道部・土屋聡史)


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2020年11月17日火曜日


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