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緊急企画・宮城県美術館、現地存続へ(上) 経済性を優先、矛盾はらむ

県美術館の現地存続を表明した村井知事。モニターに映し出された資料を使って約20分間、淡々と説明した=16日、県庁

 宮城県美術館(仙台市青葉区)を仙台医療センター跡地(宮城野区)に移転する構想は、建物の価値や歴史を知る関係者の猛反発を浴びた県が計画を断念し、現地存続する形で幕を下ろした。これまでの関係者の動きを検証し、県の文化行政の課題を展望する。

 「職員にも迷惑を掛けた」。16日朝、県の政策会議。村井嘉浩知事は言葉を選び、県美術館の移転断念を幹部に告げた。
 老朽化した東京エレクトロンホール宮城(県民会館)も集約し、一帯を東北の文化拠点に育てるはずだった。知事の表情には、計画撤回の無念さがにじんだ。
 一連の議論をベテラン県議は回顧する。「県は経済性を、反対派は文化的価値を重んじた。議論は最後までかみ合わなかった」
 当初、知事は移転新築案に自信を見せていた。
 立地はJR仙台駅東口から徒歩圏で、楽天生命パーク宮城の近隣。「芸術に接する機会が少なかった人を含め、幅広い層が野球観戦の前後に文化に触れられる」。知事の触れ込みは、一定の説得力を持った。
 県財政からの持ち出しを抑えるため、国の起債制度に目を付けた。条件を満たせば、現地改修の費用よりも数十億円以上節減し、最新鋭の施設を建設できる。
 「経済合理性の観点で、極めて良案」(県議)と見られたが、発表から程なくして暗雲が立ちこめる。
 日本近代建築の旗手、故前川国男氏が設計した建物の価値を知る市民団体から「暴論」と批判が噴出。県議会でも野党はおろか、最大会派の自民党・県民会議まで疑問を投げ掛けた。
 移転集約構想が世に出る1年8カ月前、県教委が現地での増築改修案を策定していた経緯も矛盾をはらんだ。突如浮上した180度の転換に、県庁内でも「政策形成過程の軽視」との本音が漏れ出した。
 「指摘は正しいと思います」。県議会9月定例会で移転案を厳しく追及した自民県議は終了後、県幹部に声を掛けられ不意を突かれた。「組織内に微妙な諦めムードが漂い始めた」と受け止めた。

 「現施設の引き受け手はないか」。県トップの号令で、職員は大学や企業などを訪ね歩き、建物の活用策を模索。時には自ら交渉に赴いたが、「15億円程度」とされる評価額や高額な維持費を念頭に、誰も首を縦に振らなかった。
 移転断念の1カ月前。村井知事は県議会の県政与党会派幹部を知事室に招き、最後の腹案を明かした。
 「美術館は移し、現施設を文化資料の収蔵庫などとして活用するのはどうか」
 急ピッチで検討を進めたが、現施設の構造は特殊で他の用途に使いにくく、彫刻家の故佐藤忠良氏(宮城県大和町出身)らが手掛けた建物周辺の有名作品の扱いもクリアできなかった。
 国の起債制度も時限的で、不安材料だけが積み重なる。「厳しいかもしれない」。11月上旬、ついに村井知事は近い関係者に吐露。奥の手もついえた。
 移転新築から現地存続へ急転した県美術館の将来。
 県の試算では、増築なしの現地改修案は国の起債制度を活用した移転新築案より、整備後30年間の総事業費が約110億円膨らむ。財政規律派の県議は「この数字は小さくない」と危惧する。
 「皮肉だが、ここまで注目が集まったことはなかった。問題はお金の面だけではない。文化行政を見詰める契機になった」。県幹部は経緯を振り返り、こう言い聞かせる。「議論を継続し、高めていかねばならない。大事なのは、むしろこれからだ」


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2020年11月18日水曜日


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