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緊急企画・宮城県美術館、現地存続へ(下) 反対の声、各界から広がる

美術館移転を巡り議論が白熱した県美ネットの出前講座=10月17日、仙台市宮城野区の県婦人会館

 「県はあくまで経済優先だ。価値ある文化芸術は県民で話し合って決めなければいけない」
 10月31日、市民団体「宮城県美術館の現地存続を求める県民ネットワーク(県美ネット)」が登米市内で開いた出前講座。早坂貞彦共同代表が呼び掛けると、受講者約50人から拍手が起きた。
 県美術館(仙台市青葉区)の移転の論点や建築の特長を解説する県美ネットの講座は8〜11月の4カ月間に、県内12市町で開かれた。計17回の参加者は1000人超。「文化教育施設は商業施設とは違う。費用対効果で論じるべきではない」。議論は白熱し、毎回活発な意見が飛び交った。
 「仙台市以外の郡部の人々が特に熱心だ。美術館が県民に幅広く愛されていると実感した」。西大立目祥子共同代表も驚きの表情を見せた。
 昨年11月、村井嘉浩宮城県知事による移転案発表以降、県内では美術関係者やまちづくり団体など移転に反対する市民グループが次々にできた。今年7月に各団体が合流して県美ネットが誕生。「コスト重視」「経済優先」で計画を進める県に対し、県美術館の文化的価値の重要性を前面に論陣を張った。各団体は県に、計画中止を求める要望書を次々に提出。参加団体の一つが昨年末に始めた署名活動は2月時点で1万7773筆に達するなど、反対運動は大きなうねりとなっていく。
 県美術館に作品を提供した作者らも運動を後押しした。前庭の環境彫刻を手掛けたイスラエルの世界的彫刻家ダニ・カラバン氏は「移転されれば作品は破壊される」と指摘。宮城県大和町出身の彫刻家、故佐藤忠良氏の遺族は「著作権継承者として許せない」と反対した。
 異論を唱えたのは、美術界だけではない。故前川国男氏とともに設計に携わった建築家大宇根弘司氏は、建物の断熱性や丈夫さを挙げ「100年どころか、手入れをすれば半永久的に使える」と反論した。
 各界各層から繰り出される意見は、一文化施設の在り方を超え、教育論や環境論、都市文化論など多方面に広がりを見せた。

 双方の主張が平行線をたどる中、村井知事は10月、それまで検討してきた「現地増築」「移転・集約」に加え、現地での増築なしの改修案を第3案として突如発表する。当初検討案の一つにすぎないとみられていた第3案は、わずか1カ月後、県方針に決まった。
 「美術館の文化的価値を再評価した」。村井知事は移転断念の理由をこう説明した。市民グループの主張をほぼ「丸のみ」する方針転換。自らが管理する施設の価値を、見誤ったことが最後に来て響いた。
 「県民にとっての美術館の存在の大きさや愛着が運動を突き動かした」。県美ネットの西大立目共同代表は振り返る。
 現美術館建設の際には、県芸術協会の会員が県の建設準備委員会に参加するなど、県民が主導的な役割を果たした。県民主体の精神も県美術館の財産だ。
 東北大関係者でつくる「宮城県美術館の移転計画中止を要望する有志の会」の代表、野家啓一東北大名誉教授は言う。「今回の活動で発揮したエネルギーをどう生かすか。一人一人が知恵を絞らなければならない」


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2020年11月19日木曜日


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