“聴く”新聞広告「新聞からご当地ソングが聴こえてくる。」
2024年度「新聞広告PRコンテスト」大賞を受賞
日本新聞協会が2023年度から主催する「新聞広告PRコンテスト」。2024年度の大賞に選ばれたのが、河北新報社営業局が提案した「新聞からご当地ソングが聴こえてくる。」プロジェクトだ。2024年10月16日から20日にかけて、全国76紙・約2900万部に掲載された。
紙面には、47都道府県の地図とともに各地のご当地ソングにつながる二次元コードを掲載。スマートフォンをかざすと、地元ゆかりの名曲がジュークボックスに見立てた新聞から流れ出す。そんな遊び心ある仕掛けが話題を呼んだ。
新聞広告の可能性を広げ、地域の魅力を音楽で伝える。そんな挑戦の舞台裏を企画を手がけた河北新報社のプロジェクトメンバーに聞いた。
プロジェクトメンバー
発想の原点は「貼って、残したくなる新聞広告」
――本企画の概要および、企画が生まれた背景を教えてください。
- 畠山
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「新聞からご当地ソングが聴こえてくる。」は、47都道府県それぞれのご当地ソングを、日本地図とともに紙面に掲載した二次元コードから聴ける新聞広告です。
2024年度の「新聞広告PRコンテスト」では全国の新聞社17社・27件の応募の中から大賞を受賞することができました。
- 香川
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そもそもは「壁に貼りたくなる新聞広告を作りたい」という発想から始まりました。テレビやラジオなど他のメディアにはない、新聞ならではの強みとは何かと考えたとき、やはり「紙であること」に行き着いたのです。貼って保存できるという新聞の特性を生かし、それを軸に企画を練っていきました。
- 畠山
-
そこから思い出したのが、子どもの頃、実家のトイレに貼られていた日本地図。毎日目にするうちに自然と都道府県の位置を覚えたことから、「長く貼っておけて、役に立つ」広告として、日本地図を紙面に活用するアイデアが浮かびました。
さらに、「紙面から音楽が聴こえてきたら面白いのでは?」という発想から、ご当地ソングと二次元コードを組み合わせる仕掛けを思いついたんです。
ご当地ソングには、その土地ならではの情景や文化が詰まっていて、地域の人々に長く親しまれてきた歴史があります。楽曲を通じて、各地の魅力を伝えられるのではないかと考えました。
- 香川
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新聞は「読む」媒体ですが、二次元コードを活用することで「聴く」体験にもつなげられます。読者が能動的にアクションを起こすことで、新聞広告の新たな可能性を感じてもらいたいという意図もありました。
メインターゲットは、ご当地ソングやジュークボックスに親しみのある40代以上の世代を想定していましたが、近年は昭和カルチャーに魅力を感じる10~20代の若者も増えています。そうした若年層も巻き込み、家庭や職場で「この曲、知ってる?」「懐かしいね」といった会話が自然と生まれる、世代を超えて楽しめる新聞広告を目指しました。
河北新報社 畠山茂陽
――幅広い層に届けるためのPR施策として、どのような展開をされたのでしょうか。
- 八巻
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ご当地キャラクターによるSNS発信やプレゼント企画などさまざま行いましたが、特に大きな反響を呼んだのが、宮城県出身の音楽ユニット「MELOGAPPA(メロガッパ)」とのコラボレーションです。本企画にあわせて制作された「47都道府県ご当地ソングメドレー」はプロジェクト実施期間中にYouTubeで35万回以上再生され、全国の若年層を中心に大きな支持を集めました。
- 堀込
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「ガッパ隊」と呼ばれるファンの熱量がとにかくすごかったですね。動画の公開は新聞配達の時間にあわせて早朝4時に公開したのですが、そのタイミングにあわせて待機してくれた方も多くいました。広告は5日間の掲載期間のうち、各紙が任意の1~2日を選ぶ形式だったため、「うちの新聞には載ってた」「うちはまだ」といったファン同士のSNS上での交流も盛り上がっていました。
- 畠山
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そのほか、PRアンバサダーには青森県を拠点に全国で活躍する王林さんを起用。「○○新聞を読んでいるみなさ~ん!」と題号を読み上げる演出や、全国の新聞紙を素材にした「新聞ドレス」など、視覚的にも話題性のある工夫を取り入れました。
MELOGAPPAのおふたり
身に纏った王林さん
ご当地キャラクターの
皆さん
地元の人しか知らない「知られざる名曲」に出合うきっかけに
――ご当地ソングの選定は、どのように進められたのでしょうか。
- 八巻
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書籍やインターネットを活用してリサーチを行い、各都道府県ごとに3曲ずつ候補を挙げました。それをリストとしてまとめ、各地の新聞社に「この中から1曲を選んでください」と依頼するかたちで進めました。
- 畠山
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例えば宮城であれば「青葉城恋唄」のような定番曲がありますが、他県のご当地ソングについてはわからないことも多く、資料や地元紙の協力が不可欠でした。
- 八巻
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印象に残っているのは山口県です。「輝きながら…」という徳永英明さんの楽曲が書籍に掲載されていたのですが、正直私は知らなくて。調べてみると、作詞を手がけた大津あきらさんが山口県出身で、現地には歌碑もあることがわかりました。それでリストに加えたところ、地元紙の担当者から「これしかないです!」と返答が。実際に掲載したら、読者から「さすが、わかってる!」という声を多数いただきました。
- 堀込
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鹿児島の「ちゃわんむしのうた」もそうですね。こちらは最初、リストに入ってすらいなかったのですが、地元紙からの強い推薦があり掲載したところ、鹿児島出身の方々から「これこれ!」という反応がたくさん届きました。
- 八巻
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地元の人にとっては当たり前でも、外部の人には知られていない曲も多く、本やネットに出てこない「知られざる名曲」に出会えたのは、この企画ならではの面白さだったと思います。
ちなみに、選曲には約1カ月かかりました。6〜7月にかけて、毎日YouTubeで調べて聴いて……下調べだけでも、500曲は聴きましたね。私の2024年の夏は、ご当地ソングの選曲で終わりました(笑)。
河北新報社 八巻恭子
47都道府県のご当地ソングと共に、
SNSなどで寄せられたコメントもあわせて掲載しました。
――選曲以外にも、制作過程ではさまざまな苦労があったのではないでしょうか。
- 畠山
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二次元コードを読み込むことで、動画で楽曲が聴ける仕組みを採用したのですが、著作権の扱いについては慎重に対応しました。JASRACに確認したところ、「既に公開されているYouTube動画にリンクするだけなら申請不要」との回答を得ましたが、今回は全国規模のキャンペーンです。音楽出版社やレコード会社にも個別に確認を取ることにしました。
- 堀込
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この確認作業が、予想以上に大変でした。まずはそれぞれの楽曲の権利元を特定し、メールや電話で一件ずつ問い合わせていくのですが、「うちではなく別の会社が管理しています」と他の窓口を案内されることも多くて。こうしたやり取りを47都道府県分すべてで行う必要があり、しかも複数回にわたる場合も少なくありません。結果として、単純な「47倍」では済まない工数がかかりました。
- 畠山
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新聞広告の紙面データを全国の新聞社に送る作業も、なかなかの重労働でした。CD-ROMでの納品が必要だったため、81枚を一枚ずつデータを焼いて案内状を封入しました。発送作業は深夜の3時までかかりました。手伝ってくれるはずだった八巻さんが、ご家族の体調不良で急きょ来られなくなるというハプニングもあり……ピンチヒッターを呼ぶなどして、なんとか乗り切れました。
- 堀込
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「あなたの好きなご当地ソングを教えてください」という参加型のキャンペーンも、苦労の連続でしたよね。景品の「47都道府県ご当地ドリンク特別セット」は、ぴったり合う段ボール箱を探すのも、梱包や発送も一筋縄ではいかず……。
- 畠山
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そのドリンクをそろえるのも、本当に大変でした。東京のアンテナショップは20数軒まわりましたし、それでも見つからないものはネットで取り寄せたり、出張先の社員に頼んだりと、あらゆる手段を駆使してなんとかそろえました。アイデア自体はとても良かったのですが、いざ実行となると、想像以上に骨の折れる作業でしたね。
河北新報社 堀込祐佳
参加を呼びかけました。
集まりました。
ご当地ドリンクを
届けました。
――今回の取り組みを通じて、どのような反響や成果がありましたか。
- 八巻
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MELOGAPPAの発信力は想像以上でした。ファンの方々がSNSで一斉に拡散してくださったことで、予想を大きく上回る広がりを実感しました。
- 堀込
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「普段は私しか新聞を読まないけれど、この企画は子どもや夫と一緒に楽しめました」といった感想も多く寄せられました。家庭の中で会話が生まれるきっかけとなったのは、当初の「世代を超えて楽しめるように」というねらいに通じる成果だったと思います。
- 香川
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何を隠そう、私自身も自宅のトイレに紙面を貼っています。最近、4歳の子どもが「これはなに?」と興味を示すようになり、「日本地図だよ」「日本ってなに?」といった会話が自然と生まれるように。当初のねらい通り、新聞広告が家族の会話のきっかけになっていて、とてもうれしく感じています。
- 畠山
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数字としても、明確な手応えがありました。全国76紙に掲載された二次元コードからの流入数は、5日間(10月16日~20日)で31,171セッション。キャンペーンサイト全体のアクセスも、10月16日~11月12日で20万PVを超えました。また、10月18日にはTBS系列「ゴゴスマ」でも取り上げられ、大きな反響につながりました。
ローカルから全国へ。「チーム宮城」が拓いた新聞広告の新境地
――今回の取り組みを振り返って、特に印象に残っていることや、感じたことを教えてください。
- 八巻
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今回のキーワードは「歌」でした。そして、それと読者をつないだのが二次元コードです。47都道府県分のコードを一枚の紙にぎゅっと集めて、みんなでワイワイ言いながら読み取って音楽を楽しむ。そんな光景が全国で広がったことに、新聞ならではの力を改めて感じました。
地元の人にしか知られていない「地域の宝」は、まだまだたくさんあります。そうした魅力を掘り起こす媒体として、新聞には大きな可能性があると改めて実感しています。
- 堀込
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一般的に新聞広告というと、一度掲載されたら終わりというイメージがあるかもしれません。でも今回はそこからさらに、聴く・共有する・語り合うという広がりが生まれました。保存性という新聞の特性を生かしつつ、新しい広告の形を体現できたと感じています。
- 畠山
-
新聞社の営業社員として「こんなおもしろい仕事もできる」ということをもっと知ってもらいたい。それが原動力の一つでした。全国76紙・約2900万部というスケールで、演出やプロデュースにまで関われた今回の取り組みは、私のサラリーマン人生で最大級の仕事になりました。大きな誇りですし、喜びでもあります。この経験を通じて新聞広告の可能性を感じ、新聞社を志す後輩が続々と生まれてきたらうれしいですね。
――今後、挑戦したいことはありますか。
- 畠山
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今回の取り組みでは、「チーム宮城でつくる」という視点を大切にしました。全国規模のプロモーションというと、どうしても中央発の展開が中心になりがちですが、ローカル発でもここまでやれるということを証明したかったんです。そのため、紙面デザイン、キャンペーンサイト、映像制作など、すべて宮城在住のクリエイターが手がけました。ミライトスやWACO CREATEといった地域企業との協働により、「地元の力」でここまでできるという手応えを強く感じました。
なかでも紙面デザインを担当したミライトスの鈴木圭介さんには、単なる地図ではなく「ジュークボックスを中心に、都道府県を一つずつパズルのように配置する」というデザインで、視覚的なインパクトと遊び心を絶妙に融合してもらいました。壁に貼って長く楽しみたくなるようなビジュアルに仕上がったことが、数ある応募作の中でも目を引き、大賞受賞につながった大きな要因だと思います。
この成功体験を、今後の河北新報社の広告企画にも生かしていきたいと思っています。たとえば、宮城県内の35市町村をテーマにした「ご当地ソング集」をつくるプロジェクトなども面白そうですよね。地元アーティストとコラボして、地域の魅力を音楽で発信していく。そんな取り組みを、引き続き「チーム宮城」で仕掛けていけたらと思っています。
河北新報社のプロジェクトメンバー
- 河北新報社 営業局
- 畠山茂陽 八巻恭子
香川真菜 堀込祐佳 - ミライトス
- 鈴木圭介 赤渕利恵
渡辺結芽 - WACO CREATE
- 岩村和哉 岩村優香
- NICODESIGN
- 山口靖英 武藤友亮
- ディスピエール
- 大岩大祐
- クロカワリュート
- tbcAZ
- 長岡健市
- EDWARD AND COMPANY
- 川北力斗 小山夏音
- PRアンバサダー
- 王林
- PRサポーター
- MELOGAPPA 仙台弁こけし
ねば~る君 うなも
ちっちゃいおっさん とっくりん
きくちくん イーサキング





