河北新報特集紙面2022

2022年12月27日 河北新報掲載 
苦難の先に、人々が集う故郷の未来を描いて。

苦難の先に、人々が集う故郷の未来を描いて。

苦難の先に、
人々が集う故郷の未来を描いて。

 このバスツアーでは、
今できることプロジェクト賛同企業と紙上で募集した一般の参加者が、
一緒に福島県浜通り相双地域の南相馬市・浪江町・双葉町を訪れました。
そこは原発事故による長期の住民避難や風評などが
復興の大きな壁として立ちはだかり、
岩手・宮城とは異なる様相を現在も示しています。
一方で、次世代の産業集積を目指す国家プロジェクトや
漁業の再興などが力強く歩みを始め、
故郷再生と真の復興を願う人々の期待感が高まっています。
今できることプロジェクトとして初の宮城県外での活動を通して、
一般参加者・賛同企業それぞれの視点で相双地域の今に触れ、
新たな未来を目指す地域の姿に迫りました。

人々が集う故郷の未来を描いて。

内堀雅雄知事
福島県
内堀 雅雄 知事
 皆さんには、復興に向けてさまざまな挑戦を続ける福島の姿と、力強く歩み続ける福島の今を直接「見て」「聞いて」「感じて」いただけたのではないでしょうか。
 本県の復興は、皆さんをはじめとした、福島に心を寄せてくださる方々の御支援により着実に前進しています。一方で、未曾有の複合災害からの復興を成し遂げるためには、今後も多くの困難を乗り越えていかなければなりません。
 そのために、皆さんとの絆をさらに深めながら、福島を「被災の地」から、「希望の地」、さらには「復興の地」へと変えていくため、全力で挑戦を続けていきます。

地域伝統のサケ漁を守る真野川のふ化場を見学

 11月9日、一行を乗せたバスは、最初に南相馬市鹿島区の「真野川鮭ふ化場」に到着。真野川鮭増殖組合の紺野広顕(ひろあき)組合長理事と組合員の方々が出迎えてくれました。福島県では明治時代以降、12の河川でサケの人工ふ化事業に取り組み、真野川では毎年1万匹以上が遡上していました。東京電力福島第一原発事故で存続の危機に直面しながら、2011年以降も毎年秋に採卵を行い、放流事業を継続。今年3月の地震被害も乗り越えましたが、「気候変動による海水温上昇などの要因でサケの遡上が大幅に減少し、昨年は351匹でした」と、紺野さんは厳しい現状を話します。
 参加者が見守る中、組合員は下流のやな場で捕獲したサケが泳ぐいけすに入り、こん棒でサケを気絶させ、作業場へ搬入。メスのお腹から採卵後、オスの精子を卵にかける人工授精作業を見守りました。「1匹のサケから、約2,000個の卵が採れますが、今季好漁の北海道や山形から卵を購入し、来春は稚魚150万匹の放流を目指します」と紺野さんは前を向きます。  次に向かったのは、浪江町の復興のシンボルとなっている「道の駅なみえ」。ここから一般参加者と賛同企業参加者はそれぞれ別の視察コースへ進みました。

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いけすのサケを捕らえる組合員

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メスのサケから採卵する紺野組合長理事

賛同企業コース

未来の先進産業が躍動する国家プロジェクトの現場

 賛同企業の参加者は、道の駅なみえ会議室で、福島イノベーション・コースト構想推進機構交流促進部の穴澤竜太部長と対面。福島県浜通り地域などに新たな産業基盤を構築する国家プロジェクトの概要と展望について耳を傾けました。穴澤部長は、“廃炉”や“ロボット・ドローン”などプロジェクトが掲げる6つの重点分野を説明し、「世界でもなかなか見られない施設」と前置きしながら「福島ロボットテストフィールド」などを紹介。医療関連、航空宇宙など多岐にわたる分野での先進的なチャレンジに、参加者は大いに関心を寄せていました。
 2020年3月、浪江町棚塩産業団地で稼働した再生可能エネルギーを利用したグリーン水素製造拠点「福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)」を見学。浪江町役場産業振興課の二本木俊介さんの案内で、水素貯蔵・供給施設、研究開発棟などを巡りました。産業団地内にある高台からは、広大なエリアで展開するFH2Rや「福島高度集成材製造センター(FLAM)」などの施設群が一望され、このプロジェクトのスケール感や将来性を実感することができました。ふくしまハイドロサプライが運営する「水素ステーション ナミエナジー」にも立ち寄り、作業スタッフから移動式水素ステーションの仕組みや利用状況などについて説明を受け、身近になりつつある次世代エネルギー技術を実感していました。

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写真左上/プロジェクトについて説明する穴澤部長
写真左下/移動式水素ステーション ナミエナジー
写真右/二本木さんのガイドでFH2R構内を見学

一般参加者コース

震災と原子力災害について学びと教訓を得られる伝承施設

 一般参加者は、2020年に開館した双葉町の「東日本大震災・原子力災害伝承館」を見学しました。東日本大震災と原子力災害についての豊富な資料を収蔵しており、常設展示室には約200点を展示。災害の始まりから事故直後の対応、復興への挑戦、そして長期化する原子力災害の影響と、テーマごとに実物資料や証言映像、模型などで詳しく知ることができました。さらに、館内各所でスタッフによる詳しい解説もあり、宮城や岩手とは違う東日本大震災による被害状況と現在に至るまでの問題について深く理解を得ることができました。また、伝承館でも、福島イノベーション・コースト構想について紹介する展示があり、福島ロボットテストフィールドで開発が進む垂直離着陸航空機「tetra Mk-3」に、参加者から熱い視線が注がれていました。

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熱心に原発事故関連の展示を見る参加者たち

好漁場を再生させた漁師の港と町民の帰還を待つ窯元の里

 一行は福島第1原発から7㌔の浪江町「請戸(うけど)漁港」で合流。浪江町役場農林水産課の青田洋平さんと岩尾恒雄さんが、地域の被災状況と昨年3月に復旧した港湾施設、安心・安全のため国が定める出荷基準よりも厳格な数値を設けた検査体制について説明しました。お二人は「”請戸もの”と呼ばれる質の高い海産物は、供給が追いつかないほどの高いニーズが関東圏の飲食店などからあります。こうした高評価が、一部に残る風評を払拭する近道になると考えています」と結びました。
 また帰還困難区域で立ち入りが制限される酒井地区から大堀地区にかけてもバス車窓から視察。江戸時代から続く大堀相馬焼の伝統を受け継ぐ人影が絶えて久しい大堀地区では、荒れ果てた旧春山窯前で下車し、原発事故がもたらした影響の深刻さを胸に刻みました。

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ソーラーパネルに覆い尽くされた酒井地区

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帰還困難区域内にある春山窯の旧工房

一般参加者の声

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 開館してすぐに「東日本大震災・原子力災害伝承館」を見学したんですが、今回、詳しい解説付きで展示を見学することができて、より理解が深まりました。福島の被災状況には以前から高い関心を持っていたので、このバスツアーに参加できて大変良い機会になりました。これまで、宮城や岩手のさまざまな震災関連施設を巡ってきましたが、やはり原発事故が引き起こした問題の深刻さは圧倒的で、深く考えさせられました。

賛同企業の声

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 相双地域にはプライベートでよく来ているので、とてもなじみ深く感じています。このバスツアーに参加し、新しい研究施設や復旧した請戸漁港を目にして復興の進捗を確認でき、内外からも多くの注目を集めていることにうれしく感じました。しかし、浪江町の住民の多くがまだ帰還を果たしていない現状も知り、今後も支援を続けなくてはという思いを強めました。社業においても、いろいろな形で関わっていければと考えています。