vol.04

「健康経営」を
新年度の経営課題に

従業員が健康でいきいきと働ける職場づくりに欠かせない「健康経営」。上手に実践している企業は、高齢者から中堅、若手の社員まで、すべての労働者にとって魅力ある職場となり、企業にとっても生産性の向上や人材確保にもつながる大きなチャンスです。宮城県内では健康経営を積極的に取り入れた結果、社内に活気が生まれたり業務の効率が上がったりと、成果を実感する中小企業が増えてきています。2020年の経営課題の一つとして身近なことから始めてみませんか。

特別講演

中高年の労働者が、
生き生き安全に働くために

~健康経営の勧め

労働人口高齢化による影響

2000年以降、労働人口の高齢化は急速に進んでいます。令和の時代の大きな人口問題は働き盛り世代の減少です。2002年に全国で904万人だった60歳以上の就業者数は、2017年には1334万人になっています。建設業界でも3人に1人が55歳以上で、技能労働者の若年層減少問題も、近い将来深刻化することが予想されています。加齢による心身機能の変化として顕著なのは、疲労回復力、薄明順応、聴力、平衡能力、動体視力の低下。いずれも建設業界では転倒や転落など重大な事故につながるリスクになります。また、高ストレス、うつ、睡眠不足などによる疲労状態が続くことが事故につながるというデータもあります。

ヒヤリ・ハット体験は、不眠状態で18%、高ストレス状態では50%以上の増加が見られ、作業の安全性に大きな影響を及ぼすことが分かっています。対策として「疲労蓄積度」の自己診断チェックを行う職場も増えていますが、もう一つ注目するべきは「職場の快適度」。それもハード面だけでなくソフト面をチェックしていただきたい。ソフト面とは、例えばキャリア形成ができるか、人間関係が良好か、働きに見合った給料がもらえているかなどなど。つまり仕事にやりがいをもってストレスなく楽しく働けているかどうかです。

健康経営で“ 選ばれる企業 ”へ

就活中の学生とその親を対象にした「どういう企業に就職したい・させたいか」というアンケートでは、回答のトップが「従業員の健康や働き方に配慮している企業」との結果が出ています。経済産業省は2016年に「特に優良な健康経営を実践している企業・団体」を対象に認定制度「健康経営優良法人」を創設しました。そのうち大企業等を対象にした通称「ホワイト500」があります。

合同説明会でも、ホワイト500の表示がある会社は学生が集まります。このことからも分かるように優秀な人材を確保するには、健康経営に取り組み就活生とその家族から選ばれる企業になる必要があるのです。現在、全国の中小企業からトップ500を選ぶ事業を国で予定しています。これが進めば、中小企業でも健康経営に取り組んでいるか否かを、より可視化しやすい状況になっていくでしょう。人材確保のインセンティブとして、ますます欠かせないものになっていくことが予想できます。

重要なのはプレゼンティズム

労働生産性の向上は、健康経営により期待できる効果の一つですが、この労働生産性が低下する要因には、欠勤によるもの(アブセンティズム)と、就業中の心身の不調によるもの(プレゼンティズム)があります。

生産性に及ぼす影響は欠勤のほうが大きいように思われがちですが、実は健康関連コストで大勢を占めるのはプレゼンティズムです。出勤していても頭痛、腰痛、メンタルの不調などのほうが、労働生産性に及ぼす影響は大きいのです。このことからも、従業員のモチベーションが向上し働きやすく行きたくなる職場を作ることが、いかに重要かをご理解いただけると思います。

スモールステップから始めよう

健康経営の進め方のコツは、まず難しく考えないこと。〝スモールステップ”から始めていただきたいのです。実際に行われているのも、会議室を普段いるオフィスから離れた場所にする、立って会議を行う、椅子の代わりにバランスボールを使うなど、日常の動きに組み込まれているものが多いのです。社員に努力を強制するようなことは長続きしません。ほんの少しの工夫で知らず知らずのうちに従業員が健康になっていき、その結果コストが削減でき、就業希望者が増え、生産性が高まり、企業イメージがアップする。これが究極的な健康経営の姿です。協会けんぽ(全国健康保険協会)宮城支部がとても良い事例紹介集を作っておられます。ぜひ参考にして簡単なことから取り組みを始めてほしいと願っています。

健康経営の浸透に手応え中小企業の取り組み推進を応援

辻󠄀 一郎 教授
東北大学大学院 医学系研究科
公衆衛生学分野

宮城県で健康経営に取り組む企業は、
一昨年と比較しすごく増えました。

それまでの「健康経営って何?」という反応から、わが事として考え参加し、認定を受ける動きが企業間に出てきている。着実な変化を目にして手応えを感じています。今後の課題は、企業間格差をどうやって縮小するかです。すでに健康経営を行っていて順調な会社は、もともとの業績が良くて余裕があるから取り組める、という部分もあります。それに対し、余裕が無くて取り組めないでいる企業との格差は広がる一方。中小企業は特にその傾向があるので、そこをなんとかしていきたいと考えています。

地方は人口減少問題もあって企業を取り巻く環境も厳しいですが、県、協会けんぽ、新聞社と協働で盛り上げて応援し、東北地方の代表として活躍する企業が宮城県から出てくることを楽しみにしています。

健康経営とは

健康経営とは、従業員の健康保持・増進の取り組みを経営的視点から考え、戦略的に実践することです。

従業員の健康保持・増進に取り組むことは、従業員の活力向上や生産性の向上などの組織の活性化をもたらし、結果的に業績向上や組織としての価値向上へつながることが期待されます。

2020年2月11日付
 河北新報朝刊_特集紙面 Vol.4より転載

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このページの内容は河北新報に掲載された特集紙面を一部再編集してご紹介しています。
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