vol.12

「未来を築く、健康経営」で
企業の成長と社会の発展両立へ

従業員が健康でいきいきと働く職場づくりを行う「健康経営」。取り組む企業は年々増えており、業績向上や人材確保などの成果につながり始めています。今回は2006年に健康経営を提唱し、現在まで普及啓発を推進する「NPO法人健康経営研究会」の岡田邦夫理事長から、これからの健康経営の在り方について話を聞きました。

INTERVIEW

「健康経営」
今までとこれから
新時代に沿う指針を提唱

特定非営利活動法人
健康経営研究会

理事長 岡田 邦夫

「健康経営」誕生から16年 
コロナ禍で浸透が加速

私どもが健康経営という考え方を提唱した背景には、高齢社会対策基本法が施行された1995年ごろから、国が本腰を入れて対策に取り組み始めた社会の高齢化があります。未曽有の高齢社会に対応するには、定年退職したときに元気であることがとても重要です。そのためには、現役で働いているときから経営者が従業員の健康づくりに投資をすることが必要だと、さまざまなデータから分かったのです。

当時は多くの企業が〝福利厚生はコスト〟と捉えていました。例えば健康診断を実施して異常があっても再検査をせず、やりっぱなしが当たり前でした。そんな風潮の中で「経営者が経営の視点で従業員の健康づくりに投資することで、企業の利益と従業員の健康を両立させる」というコンセプトを立て、2006年に健康経営研究会を設立したのです。

こうした考えは日本社会では全くなじみがありませんでしたが、海外ではすでに広まっていました。それを実感したのは、ある企業の人事部長の話で、 米国のボストンで日本人留学生に企業説明会を行った際に、 学生からの質問が賃金などの処遇や業務内容よりも 「あなたの会社は私たちを大切にしてくれますか」だったことです。

その後、日本でも国の戦略に健康経営という言葉が入り、健康経営銘柄や健康経営優良法人の認定制度が整い、多くの経営者もやっと関心を持ち始めました。健康経営が一気に加速した要因の一つが、一昨年からの新型コロナウイルスによるパンデミックです。政府はそれ以前から「働き方改革」を打ち出し、在宅勤務の推奨やワークライフバランスの重要性を提唱していましたが、ほとんど進んでいませんでした。それが感染症対策として実行せざるを得なくなり、準備ができていた企業とそうでない企業の間には大きな差がついたと言えます。


感染症対策として、在宅勤務を可能にした企業が大幅に増加し、働く場所も多様化している

健康経営の定義が深化 
「未来を築く、健康経営」

現在、従業員の健康なくして、企業のサステナビリティは維持できない時代になりました。またSDGsやESGの考え方が世界的に主流になりつつあることからも分かるように、世の中は大きく変化し、会社の在り方も以前とは変わっています。そこで、健康経営の定義を今の時代背景に沿った内容でさらに深化させ作成したのが、昨年(2021年)7月に発表した健康経営の深化版「未来を築く、健康経営」です。

深化版の一番のポイントは「倫理観」です。多様化が進み、経営学は利益の追求だけでは成り立たなくなってきました。得た利益を社会に還元していくことや、雇用を守るための倫理的配慮ができる企業をつくっていくことによって、日本全体を活性化させる。そして社会が成長したら、今度はその利益が企業に返ってくる──そんな良い循環を作っていこう、というのが深化版を作成した目的です。つまり、従業員の健康と企業の利益を両立させるとともに、企業と社会を両立させていくことも考えていかないと、日本の成長は期待できないのではないかということです。

その上で今後重要になってくることの一つが、管理職の「人財」育成だと考えています。企業の健康経営の実際の担い手、戦術家となるのは管理職です。彼らがゆとりを持って仕事することができれば、部下を指導・育成する時間が持てます。管理職がプレイイングマネージャー化してしまうと、疲弊して「人財」の質が下がってしまう。そこをどう解決していくかは、わが国が抱える大きな課題です。

従業員・企業・社会 目指すは三方良し

地方都市においては、健康経営が進んでいる都市とそうでない都市の温度差はまだまだ大きいと感じます。某市で中小企業経営者の集まりに参加した際のことです。「社員10人中6人がインフルエンザで休み、仕事に影響が出て大変だった」と話したある社長さんへ、別な経営者が「うちは社費で予防接種をしたから大丈夫だったよ」と返していました。後者の社長さんが行ったのは従業員を資本と考えた「投資」。同じ市の中でもこんな格差が生まれています。


「人という資源を資本化し、企業が成長することで社会の発展に寄与すること」が今後の企業経営にとってますます重要になってくる
出典:健康経営研究会ホームページより

中小企業で大事なのは、初めからいきなりブライト500※を目指すことではなく、経営者が集まったときに全員が健康経営について共通の認識を持てるような風土を作っていくことです。また、健康経営優良法人を取得した企業に対して、融資や公共工事の入札でインセンティブを与える自治体も出てきています。北海道の岩見沢市は、2016年に全国で初めて「健康経営都市宣言」を行い、地元企業の健康経営の取り組みを積極的に支援しています。従業員がやりがいを持って生き生きと働いて、企業が繁栄すれば、人が集まり地域が活性化する。そうなれば地方行政にとってもメリット。つまり三方良しです。

実際に何をすればいいか分からない場合は、協会けんぽなどの相談窓口に相談してアドバイスをもらい、ステップを一つずつ上げながら進めていくといいでしょう。少しずつでもいいから啓発していき、次第にそれが当たり前のようになってレベルアップしていく。まずはそうしたところからスタートしていただけたらと思います。

※ブライト500…中小規模法人部門の健康経営優良法人のうち、上位500法人に与えられる認定制度

2022年2月11日付 河北新報朝刊_特集紙面 Vol.12より転載

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このページの内容は河北新報に掲載された特集紙面を一部再編集してご紹介しています。
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