河北新報特集紙面2020

2020年12月20日 潮風とたき火が教えてくれる、風土に息づく豊かさを。

潮風とたき火が教えてくれる、風土に息づく豊かさを。

仙台市荒浜地区の豊かな地域資源を再確認し、実体験を通じて“生きる力”について考える活動を展開している「荒浜のめぐみキッチン」。
今回は、その中心メンバーと一緒に、震災遺構・仙台市立荒浜小学校で震災について学びを深め、深沼海岸と活動拠点・荒浜ベースでさまざまな体験メニューにチャレンジしました。
参加者は、農や漁、海や貞山運河といったこの地域ならではの“地の恵み”に触れ、 新鮮な発見とともに心を潤す貴重な時間を過ごすことができました。

震災遺構と砂浜で知る海の怖さと美しさ

 参加者を乗せたバスは仙台駅東口を出発し、震災遺構の仙台市立荒浜小学校へ向かいました。校庭で到着を待っていたのは、荒浜のめぐみキッチン共同代表である小山田陽さんと渡邉智之さんら活動メンバー、そして、施設ガイドの高山智行さんと貴田恵さん。それぞれ自己紹介をした後、参加者は2つのグループに分かれて校舎の内部を見学しました。当時そのままの教室など、さまざまな展示に見入る一行。2階の天上に残った水しぶきを目の当たりにして、思わずため息がもれる参加者もいました。見学の最後、地元の人たちで作り上げた荒浜地区のジオラマを前に、「あの日を境に、それまであった日々の営みを失いました。それでも、地元の人々は途絶えそうになっているものを紡いで、新しいまちづくりに取り組んでいます」という高山さんのメッセージに、参加者たちは温かな拍手を送りました。

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高山さんの詳しい説明を聞きながら荒浜小を見学

 荒浜小を後にし、次に向かったのは白い砂浜が広がる深沼海岸。ここでは、キャンドルホルダーを作るための材料を集める“ビーチコーミング”とゴミ拾いを行いました。親子で熱心にきれいな貝殻を探していた仙台市青葉区のお母さんは、「高校生の時に、海水浴で来たことがありましたが、防風林がよく茂っていたという思い出が残っています。今は穏やかに見えますが、風景が変わるほどの災害があったのだと改めて振り返る機会になりました」と、堤防の方を感慨深げに眺めながら語ってくれました。

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キャンドルホルダー作りのために熱心に貝殻探し

荒浜の地で育まれた恵みを青空の下で味わう贅沢時間

 活動の場所を、荒浜のめぐみキッチンの拠点となっている田園に囲まれた荒浜ベースへと移し、お待ちかねのランチタイム。農業を営む渡邉さんが育てた新米を土鍋で炊いたほかほかのご飯、地元の新鮮なネギを使ったネギ味噌、かつて貞山堀で盛んだったシジミ漁にちなんだシジミの味噌汁、そしてたき火にくべて蒸かした里芋と、どれもこの地ゆかりのご馳走ばかり。「いつもは、茶碗一杯で終わるんだけど…」と笑うお母さんの目線の先には、ご飯のおかわりを求めて競うように土鍋の元へ駆け寄る男の子たちの行列がありました。

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写真左/青空の下で食べるアウトドア料理のおいしさにみんな笑顔
写真右/温かい白飯にネギ味噌、シジミ汁の組み合わせは絶品

 食後、深沼海岸で拾った貝殻でキャンドルホルダーづくりに挑戦。透明なグラスに接着剤を塗り、思い思いの場所に貝を貼り付けます。完成したら、LEDライトを仕込んでテスト点灯。それぞれ、独自の工夫を重ねて完成させ、お土産に持ち帰りました。
 クラフト体験を終えて、燃えさかるたき火をじっと眺めていた中学1年生の早坂優大さんは、「荒浜地区は、人が住めない場所になってしまったと聞きましたが、すべてをあきらめないで頑張っている人たちもいることが分かった気がします」と、この活動を振り返った感想を話してくれました。

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貝殻の配置と組み合わせで明かりの具合が変化


みんなで考える荒浜の未来

 一連の活動を終え、小山田さんは荒浜のめぐみキッチンの活動フィールドをさらに拡充する計画にも言及。そして、「皆さんが考える、荒浜にこれがあったらいいなと思うものを教えてください」という質問を、参加者に投げかけました。女性の参加者からは、「若い人や一人でも参加しやすいコンテンツがあるとうれしいですね」と提案。他の参加者からも「カフェなど、飲食や休憩で立ち寄れる場所があるといいかも」と要望があがり、周囲のみんながうなずきます。それを受けて小山田さんが、「実は、うちの料理番長の三浦忠士が、荒浜の野菜を使って土鍋で炊く無水カレーを作りたいと言っていて」と切り出すと、一斉にみんな「食べた〜い!」と大盛り上がり。そうして口々に展望を語り合う様子は、いつか多くの人が集って賑わう荒浜の未来を予感させてくれました。

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参加者のテーブルごとにまわってインタビュー

荒浜のめぐみキッチン https://arahamano-megumi.kitchen/


参加者の声

久保 純子さん(仙台市宮城野区)

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 荒浜小の見学は、ガイドの方の真に迫った語りもあって、震災当時の記憶が一気によみがえる経験になりました。午後の活動は、初めて訪れた場所でしたが、誰でも歓迎してくれるようなやさしい雰囲気もあって、自然や大地を肌で感じられる良い体験になったとしみじみ感じています。たき火で炊いたお焦げのあるご飯を食べて、味わう楽しさも得られました。

西村 博英さん・円花さん・航さん(仙台市宮城野区)

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 これまで、沿岸部の植樹活動などに参加したことがありますが、荒浜地区も着々と復興が進んできていると感じました。その一方で、いまだ行けない場所もあると聞いて、まだ厳しい現実があるのだと実感しています。荒浜のめぐみキッチンの活動もそうですが、新たな歩みを進める人たちの力で、さらに復興を進めていってほしいと願っています。

協賛社の声

三井住友海上火災保険株式会社 東北支部 復興推進担当 高田 英俊さん

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 当社として、今できることプロジェクトに共感するものがあり、今年度初めて参加させていただきました。荒浜小では、大人だけでなくお子さんも震災の語りや映像に真剣な表情で耳を傾けていたことが強く印象に残っています。午後の活動は、私自身も楽しんで参加することができ、素敵な経験となりました。今回、参加者の皆さんが一生懸命学び、体験を楽しむ姿を見て、協賛社として支援に携わることができ、本当に良かったと感じています。

NPO法人ボランティアインフォがサポート(http://volunteerinfo.jp
「ボランティアを求める人とボランティアをつなげる」をミッションに、仙台を拠点に活動。このツアーのコーディネートを担当し、当日もガイド役として参加者をご案内しました。
今回の「今できること」の紙面をPDFで見る