vol.05

今こそ始めよう「健康経営」
働き方を見直すチャンス

従業員が健康でいきいきと働ける職場づくりに欠かせない「健康経営」。上手に実践している企業は、高齢者から中堅、若手の社員まで、すべての労働者にとって魅力ある職場となり、企業にとっても生産性の向上や人材確保にもつながる大きなチャンスです。宮城県内では健康経営を積極的に取り入れた結果、社内に活気が生まれたり業務の効率が上がったりと、成果を実感する中小企業が増えてきています。2020年の経営課題の一つとして身近なことから始めてみませんか。

INTERVIEW

健康課題を意識し、
従業員がいきいきと
働ける職場づくりを!

辻󠄀 一郎 教授

東北大学大学院 医学系研究科
公衆衛生学分野

県民の健康課題深刻 
取り組みへ待ったなし

「健康経営」という言葉はここ数年でかなり浸透しました。実際に取り組む企業も増えています。宮城県が2016年から推進している「スマートみやぎ健民会議」や、協会けんぽが行っている「職場健康づくり宣言」事業への参加企業も増加傾向にあり、関心がますます高まっていることが伺えます。一方で、宮城県民のメタボリックシンドローム該当者や予備群の割合は、依然として全国ワースト3位以内です。他にも「歩かない人が多い」「塩分過剰」など、県民の健康課題は全国と比較して深刻な状況が続いています。生活習慣改善や健康づくりへの取り組みは、まさに待ったなしなのです。

無理なくできることから
段階的に進めよう

健康経営の成功のコツは「スモールステップ」。急激な改革ではなく、無理なくできることから段階的に進めていくことです。すでに取り組んでいる企業は、会議を立って行う、椅子の代わりにバランスボールを使う、社員食堂のメニューに塩分やカロリー表示をするなど、従業員の健康状態が知らず知らずのうちに良くなる仕組みを取り入れています。メンタルヘルスの面では、ぜひエンゲージメント(個人と組織が一体となり双方の成長に貢献し合う関係)の視点を持っていただきたいです。従業員が、会社の中で重要な役割を担っていると自他共に認められ、やりがいを得られれば、いきいきと幸せに働けます。メンタルヘルスを病気の観点からではなく、満足感、幸福感を高める"ウェルビーイング"の考え方で捉えることが求められています。

新型コロナの影響で
変化する働き方

今年に入って、新型コロナウイルスの感染拡大により、人々の働き方が大きく変化しています。緊急事態宣言後、多くの企業が在宅勤務やリモートワークを取り入れるようになりました。内閣府による生活意識や行動の変化を探る調査では、テレワークを経験した人の割合は全国で34.6%に達しています。当然、通勤で歩く機会は減少し、東京のある調査会社が都民対象に行った調査では、1日の歩数が約3000歩減ったといいます。「コロナ太り」と言われるように、運動不足を実感している方も多い。自宅の机と椅子の高さが合わないために腰痛も増えるなど、身体的には悪影響のほうが目立っています。

メンタル面では良い影響、悪い影響の両面が見えます。良い方は、通勤の満員電車や渋滞によるストレスから解放された、家族との時間が増えた、苦手な上司の顔を見る機会が減った(笑)などの声があります。一方、職場の同僚とのちょっとした雑談や、会社帰りの一杯、帰宅までのリセット時間が無くなり、ストレス処理が難しくなったという面も出てきています。そこで懸念されるのは、ノンバーバル(非言語)コミュニケーションの減少による影響です。リモートワークでは相手の雰囲気や表情が伝わりにくいので、コミュニケーションの質が低下しがちです。その結果、職場に対するエンゲージメントに齟齬(そご)をきたすことが危惧されます。とはいえ、感染予防の必要性に加えて、オフィスの賃貸費用や維持費、通勤手当や出張旅費などのコスト節減も期待されるので、リモートワークを中心にする企業は増える一方です。

こうした動きが定着すれば、首都圏に住む必要もなくなり、自然環境や住環境も良く、子育てしやすい地方へ移住してくる若い人たちが増えるでしょう。今回リモートワークを始めた企業の大半が今後も続ける方針であることから、適応する勤務形態を会社が保障していくことが必要になります。仙台のような政令指定都市クラスの地方都市の力量が試される時代になっていくと考えています。

ノウハウの蓄積活かし
非常事態乗り越える

コロナ禍にあっても社員の絆を強め体調やメンタルを良くしていこうという企業の動きも出てきています。たとえば、歩数計機能付きゲームアプリを会社全体で共有し、在宅スタッフ間で歩数を競い合うプロジェクトを行ったり、グループ企業内共通のオリジナル体操を作ってオンラインで実施していたりしています。ヘルススタッフがオンラインでカウンセリングを行う会社もあります。いずれもすでに健康経営に取り組んでいた企業の事例です。従業員の健康をどう守っていくか、健康づくりをどう行っていくかについて日ごろから考えてきたため、ノウハウの蓄積を生かし柔軟に対応できたのです。中にはさらに進んだ考えを持ってビジネスチャンスにつなげようとしている企業もあります。差はどんどん広がってくるでしょう。企業の新型コロナ対応に対する評価は、これから明らかになってくると思いますが、私の印象では、健康経営に取り組んでいる企業の方がコロナにも上手く対応しています。まだ取り組んでいない企業は、ぜひさまざまなサポート制度を上手く生かして、今すぐ健康経営をスタートしてほしいと願っています。

2020年7月11日付
 河北新報朝刊_特集紙面 Vol.5より転載

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このページの内容は河北新報に掲載された特集紙面を一部再編集してご紹介しています。
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